高齢者の方のQOLを向上させるためには身体的なサポートだけではなく、精神的なケアを大切にしなければならないのはわかっているけれど、何から手をつければよいのかわからないと困っている人はいませんか?
この記事ではより良いケアを行うために知っておきたい高齢者の心理的特徴について詳しく解説します。
高齢者になると性格は変化するのか
高齢者のケアをする上で知っておきたい心理的特徴の1つとして、年齢を重ねたからといって必ずしも性格が変化するわけではないということが挙げられるでしょう。
例えば1976年にシャイエとバーハムが21才~84才の人を対象に行った調査では老年世代は他の世代より内向性が高いという結果が出ましたが、1986年にコスタが行った調査では内向性・外向性は生涯に渡って安定しているという結果が出て、一貫していないのです。
1960年代に最初は性格と学業成績との関係を理解するためのモデルとして心理学者によって構築され、現在では人間の持つさまざまな性格は5つの要素の組み合わせで構成されるというパーソナリティ理論として活用されている「ビッグ・ファイブ理論」に当てはめて考えてみましょう。
ビッグ・ファイブ理論における性格の5つの要素を表にまとめてみました。
性格の要素 | 性格特性 | 行動特徴 |
外向性 | ・愛着・主張性・活動性・肯定的な情動を持つ | ・にぎやか ・元気 ・話好き ・勇敢 ・冒険的 ・積極的 |
協調性 | ・同調性や調和性を持つ | ・温かい ・誰にでも親切 ・愉快 ・人情に厚い ・気前が良い |
勤勉性・誠実性 | ・根気があり、物事を徹底し、綿密さがある | ・責任感がある ・仕事や勉強に対して勤勉 |
情緒安定性 | ・神経症傾向や情動性がある | ・気分が安定している ・不平不満がない ・気楽 ・嫉妬深くない 逆の場合 ・気分が不安定で悩みやすい ・神経質で嫉妬深い ・感情的 ・怒りっぽい |
知性 | ・経験を広く取り入れて判断する能力に関係している | ・好奇心がある ・知識の範囲が広い ・思慮深い ・創造的で知性的 |
1978年にコスタが行った研究によると、この5つの要素のうち特に情緒安定性、外向性、知性は加齢の影響を受けにくく、1985年にコンレー、1999年にソルズが行った研究によると5つの要素の加齢による変動は少ないということがわかりました。
これらのことから老年期を迎えたからといって必ずしも高齢者が性格の変化をきたすわけではないということが少しずつ証明されてきたのです。
参考:榎本博明「高齢者の心理」
参考:老人保健施設大樹ケアサポート研究会資料「高齢者の心理(性格)」
高齢者の心に変化をもたらす要因とは?
高齢者は年齢を重ねたからといって必ずしも性格が変化するということではありませんが、中には本来の性格傾向が拡大されたり、性格の変化をきたしたりする人もいます。
具体的には次のような変化が挙げられるでしょう。
変化 | 概要 |
頑固になる | 環境への適応力の低下から自己中心的な行動につながる |
邪推する | 聴覚能力の低下からひがむ、嫉妬するなどの行動につながる |
保守的・内向的になる | 社会的役割・家庭内での役割の喪失や環境への適応力の低下から、地位や権威を維持するために新しい変化に抵抗する |
面倒くさがる | 視覚や聴覚の衰えから根気の必要な作業や細かい作業を嫌う |
涙もろくなる | 感情コントロール力の低下から感情の波が激しくなる |
愚痴っぽくなる | 外界へ働きかける力が低下するため愚痴を言うことで鬱屈を晴らす |
話がくどくなる | 記憶力の低下により同じ話を繰り返す |
甘える | 体力の低下により依存心が強くなる |
出しゃばる | 年齢相応のプライドを保ちたいため自我が強くなる |
自慢する | 現在の状況に不満がありそれを埋め合わせるために行う |
ケチになる | 経済力の低下から金銭に対して執着する |
諦めが早くなる | 意欲や活動力の低下から自力でできないことを簡単に諦めてしまう |
円熟する | 角々しさが取れて穏やかな性格になる |
喜怒哀楽を顔に出さない | 感情を抑える習慣がついたまま高齢者になると感情が鈍化している印象となる |
このような変化をもたらす要因にはどのようなことがあるのでしょうか。
2つご紹介します。
参考:榎本博明「高齢者の心理」
参考:老人保健施設大樹ケアサポート研究会資料「高齢者の心理(性格)」
1,身体的・生理的要因
高齢者の性格に変化をもたらす要因の1つめは、身体的・生理的要因が挙げられます。
具体的には加齢に伴い、次のような生体機能の変化が起こる可能性があるのです。
・呼吸機能の低下
・循環機能の低下
・消化・吸収機能の低下
・排泄機能の低下
・運動機能の低下
・視機能の低下
・聴機能の低下
・嗅覚機能の低下
・味覚機能の低下
・感覚閾値の変化
・脳の変化
・脊髄の変化
・神経系の変化
・脳神経の生化学的変化
・免疫機能の低下
・性機能の低下
・造血機能の低下
これらの身体的・生理的要因は2000年~2005年におけるクロガーの研究により、主に行動上の制約や社会的孤立感をもたらすことがわかっています。
上記の変化の表の中では邪推する・面倒くさがる・愚痴っぽくなるといった行動につながりやすいでしょう。
また高齢者においても日常生活における恒常性は維持されていますが、ストレスが加わると若い人と比較して破綻しやすくなります。
恒常性を維持するための力としては予備力・回復力・防衛力・適応力がありますが、ストレスによってこれらが低下しやすくなるということです。
上記の変化の表の中では頑固になる・甘える・諦めが早くなるといった行動につながりやすいでしょう。
参考:メヂカルフレンド社「新体系看護学全書老年看護学①老年看護学概論・老年保健」
2,社会環境的要因
高齢者の性格に変化をもたらす要因の2つめは、社会環境的要因が挙げられます。
老年期に起こりうる社会環境の変化を3つご紹介します。
①社会的役割の変化
多くの企業では定年制が導入されているため労働者は一定の年齢になると職業を離れ、引退する必要が出て来るでしょう。
仕事における義務や束縛からは解放されますが、一方で経済力の低下、余暇時間の拡大、社会的交流の機会喪失、生きがいの喪失などにつながってしまう場合があります。
上記の変化の表の中では保守的・内向的になる・出しゃばる・ケチになるなどの行動につながりやすいでしょう。
②家庭における変化
老年期にさしかかると多くの家庭では子育てから解放されることになりますが、一方で子供がいないことで生きがいの喪失や社会的交流の機会喪失につながる場合があります。
上記の変化の表の中では愚痴っぽくなる・諦めが早くなるなどの行動につながりやすいでしょう。
しかし、子育てから解放されることによって余暇時間が拡大するため、それを自分の趣味や地域社会での活動に割くことができれば新しい友人ができたり、生活が充実したりして新たな生きがいを見出すこともできます。
上記の変化の表の中では円熟することにつながりやすいでしょう。
③エイジズム
高齢者は心身の機能の衰えや職業からの引退を余儀なくされることから、年齢による差別や虐待の対象となってしまう時があります。
高齢者の人権を認め、年齢に関係なく人として尊重するのが当たり前の社会にするために2005年には高齢者への虐待防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律が成立し、少しずつ社会環境が変化してきています。
高齢者が年齢によって差別されることなく地域で生き生きと生活できれば上記の変化の表の中では円熟することにつながりやすくなりますが、そうでない場合は生きる意欲自体を失ってしまうため喜怒哀楽を顔に出さなくなったり、諦めが早くなったりといった行動につながりやすいでしょう。
参考:メヂカルフレンド社「新体系看護学全書老年看護学①老年看護学概論・老年保健」
高齢者の心理的特徴を踏まえた精神的ケアとは?
高齢者の中には年齢を重ねることで性格が変化する人もいれば変化しない人もいますが、これらの心理的特徴を踏まえた精神的ケアをするにはどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
答えは介護の基本に立ち返り、自立支援介護を行うことです。
自立支援介護とは2016年11月10日に行われた未来投資会議にて国際医療福祉大学大学院の竹内孝仁教授によって提唱された概念で、高齢者が「身体的自立」「精神的自立」「社会的自立」を達成できるように支援していくことを指します。
身体的自立、精神的自立、社会的自立はお互いに円を描くように重なり合ってそれぞれに影響を及ぼしているため、これらの3つの自立を目指すことによって高齢者の心理的特徴を踏まえたケアを行うことができるのです。
例えば高齢者の方が加齢からくる甘えにより自分で食事を作らなくなってしまった場合、できることは自分でするよう周囲の支援者たちが促すことで精神的自立につながり、それはいずれ身体的自立にもつながっていくでしょう。
自立支援介護における基本的なケアは、次の4つです。
① 水分を1日1500ml摂取してもらうこと
② 栄養を1日1500kcal摂取してもらうこと
③ 1日2km歩行して運動すること
④ 3日以内に自然排便すること
この4つのケアは建築で言う基礎工事のようなものなので、これがしっかりとできていなければどのような個別ケアを行っても自立にはつながりません。
高齢者の方に基本的な生活習慣をしっかり整えてもらい、自立することが結果的にQOLの向上につながります。
参考:11/10第2回未来投資会議
参考:一般社団法人日本自立支援介護・パワーリハ学会「自立支援介護とは」
宅配クック123では栄養補給・水分摂取で自立支援介護をサポート
宅配クック123でも高齢者の心理的特徴を踏まえ、適切な栄養補給と水分摂取で自立支援介護をサポートしています。
栄養補給においては昼食・夕食とも1食分でカロリーを450kcal~550kcalに設定し、1日の目標値である1500kcalを規則正しく摂取できるようにしているのです。
また水分補給においては「おじやセット」など水分が多く摂取できるメニューも準備し、高齢者の方の脱水防止に努めています。
高齢者のQOLをより高めるための食事に興味のある方は、ぜひ宅配クック123にお問い合わせください。
まとめ
高齢者の心理的特徴として挙げられるのは必ずしも加齢により性格が変化するわけではないということですが、仮に変化したとしても自立支援介護を行って周囲の人が適切に身体的自立・精神的自立・社会的自立を目指せるようサポートすれば、QOLを高めることにつながるとわかりました。
ぜひ高齢者の心理的特徴をしっかりと理解し、よりよいケアにつなげていってください。