「人間の悩みは全て対人関係の悩みである」という言葉を残し、臨床心理学の基礎を築いたアルフレッド・アドラーが提唱したアドラー心理学の柱となる考え方の1つが課題の分離です。
この記事では課題の分離とはどのようなことかから、介護の現場で実践する際のポイントまで詳しく解説します。
課題の分離とは?
課題の分離とは自分の課題(自分でコントロールできること)と他人の課題(自分がコントロールできないこと)を分けて考えることです。
課題の分離は、「課題」「分離」「介入」「援助」の4つを理解するとスムーズに行うことができるので、それぞれの意味を表にまとめてみました。
言葉 | 意味 |
課題 | する必要のあること |
分離 | 自分と他人の間に境界線を引くこと |
介入 | 自分と他人との間に引いた境界線を踏み越えること |
援助 | 求められて他人の課題にアドバイスや部分的なサポートをすること |
最初にする必要のある「課題」は個人によって異なるため、それは境界線を引いて「分離」して考える必要があり、それぞれの自分らしい生き方を尊重するために「介入」を行わないというのが課題の分離だと言えるでしょう。
他人の課題に介入すると人間関係のトラブルが引き起こされますが、他人の課題を解決するためのお手伝いをする援助にはむしろ感謝の気持ちが生まれます。
課題の分離は親子関係、恋愛関係、夫婦関係、職場での関係など全ての人間関係において意識して行うことが大切です。
課題の分離を介護の現場で実践するメリット
課題の分離を介護の現場で実践すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
自分の仕事に集中できる
介護の現場では異なる職種や利用者とも協力して仕事を進める必要があるため、「協力しない」ということと「課題の分離」を混同して考えてしまいがちです。
しかし利用者の課題、介護士としての自分の課題、他の職種の人の課題をきちんと分離することで介護士は自分の仕事に集中できます。
例えばある利用者の検温が控えているけれど、少し時間をかけてもうがいを自分でしようとしている場合、介護士が課題の分離ができていなければうがいを介助しますが、課題の分離ができていれば自身は見守りをし、検温担当者の看護師にその旨を伝えて検温の順番を変えてもらうよう伝えるでしょう。
この場合、うがいを介助するのは利用者の課題に「介入」することですが、見守りと検温の順番を変えるよう配慮するのは「援助」であるため、介護士の行う必要のある仕事は援助でそれに集中するのが望ましいということです。
介護の現場に感謝しあう関係が生まれる
介護の現場ではケアを担当する人、利用者がそれぞれに課題の分離をして必要な援助のみを適切に行うと仕事がスムーズに進むため、お互いに感謝しあうことのできる良い人間関係が生まれます。
言い換えればケアを担当する人がそれぞれの専門外のことに介入しようとしたり、利用者が自分の課題に取り組まなかったりするとトラブルが発生するということです。
課題の分離をしっかりと行い、お互いの専門性を尊重したケアを行えば、そこには感謝の気持ちが自然と生まれるのです。
時間を効率的に使うことができる
課題の分離を行い自分の課題だけに取り組むようになると、それまで他人の課題に介入していた時間を自分自身のために使えるようになるため、時間の使い方がより効率的になります。
空いた時間で学びを深め、より自分の専門性を活かしたケアを行うといったことも可能となるでしょう。
課題の分離を介護の現場で実践するポイント
課題の分離を介護の現場で実践するのはメリットが大きいのですが、どのようなポイントに気を付けて行うのが望ましいのでしょうか。
5つご紹介します。
介護の現場における優先順位を考える
課題の分離を介護の現場で実践する場合、優先順位をつけてみるとわかりやすいでしょう。
例えば新人介護士に介助の指導を行っている最中にナースコールが鳴ったら、ナースコールへの対応を優先しなければなりません。
これは新人介護士への指導は「援助」であり、ナースコールへの対応は「自分の課題」であるためです。
新人介護士が介助の方法を覚えるというのは、新人介護士自身で解決しなければならない課題であるため、そもそも自分ではコントロールできないことだと考えると、優先順位が自分の課題より低いということが理解しやすいでしょう。
介護の現場において仕事に優先順位をつけ課題の分離を行うと、仕事がよりスムーズに進みます。
自分でコントロールできるかどうかを意識する
自分でコントロールできることかどうかを意識すると、介護の現場で課題の分離をしやすくなるでしょう。
例えば利用者が自分で顔を洗おうとして、普段のようにうまく蛇口を回すことができずに機嫌を損ねてしまい、冷たい言葉を投げかけられたとしましょう。
この場合顔を洗うことも、不機嫌になった利用者の感情をどうするかということもケアを行う人がコントロールすることはできません。
一生懸命にケアを行っているのに冷たい言葉を投げかけられたことは悲しく感じるかもしれませんが、利用者が今後洗顔を自分で行うかどうかを介護士が勝手に決めたり、利用者の機嫌を取ったりするのは望ましい対応ではないということです。
自分にコントロールできない他者の課題には介入しないように心がけましょう。
定期的に自分と他人の課題を切り分ける
忙しい介護の現場においては、時には自分の課題と他人の課題を即時に切り分けるのが難しいこともあるのではないでしょうか。
そのような場合、自分の課題か他人の課題か判別しにくいことを定期的にメモに書き出し、少し時間をかけて検討しながら切り分け作業を行うことをおすすめします。
例えば食事量が落ちてきた利用者について対応が必要となった場合、栄養担当がメニューの工夫をすることも大切ですが、食事介助において声がけなどの配慮も必要になるでしょう。
この場合栄養担当の課題なのか介護担当の課題なのかが判別しにくいですが、食事や体重の管理を行うのは栄養担当なので栄養担当の課題として考え、介護担当が課題解決のために援助するというのが望ましい対応となります。
互いの専門性を尊重し、課題の分離を行いながらも協力して解決策を講じることが重要です。
感情も課題の分離をする
介護の現場においては利用者に対しても、専門の異なる他のケア担当者に対しても相手の感情を尊重しながらコミュニケーションを取ることが大切ですが、この感情についても課題の分離をしっかりと行いましょう。
他人の感情は他者のもので、自分がコントロールすることはできません。
同じく自分の感情は自分のもので、自分だけがコントロールできます。
このことから自分の感情には責任を持つ必要がありますが、他人の感情には配慮はできても責任は取れないと言えるでしょう。
結果的に傷ついたり、傷つけたりしてしまうこともありますが、自分の感情の起伏をしっかりとコントロールするのに集中して仕事をすることが大切です。
他人の選択や行動を信じる
介護の現場においては、利用者や他のケア担当者の選択や行動を信用することが大切です。
例えば新人介護士の判断や行動を信頼して仕事を任せるというのは、難しいことかもしれません。
しかし新人介護士にも自分の課題を自分で解決したり、失敗したりする権利があります。
自分自身もさまざまな失敗経験や成功経験を乗り越えて今の自分があると考えると、新人介護士と自分の課題を分離して新人介護士の課題に介入しないようにすることも大切だと考えられるようになるでしょう。
忙しい介護の現場では実践するハードルが高い場合もありますが、少しずつでも課題の分離を行うことで、新人介護士が大きく成長していくのではないでしょうか。
食事援助でも「課題の分離」を大切に
宅配クック123では、食事援助の分野においても課題の分離は大切なことだと考えています。
ホームページのトップに「ちょっとお節介な、お弁当屋さんです」とのキャッチコピーを掲げているため、矛盾を感じる人もいるかもしれません。
例えば家族や周囲の人がどれだけがんばって食事を作って提供しても、それを食べるかどうかは高齢者ご本人の課題です。
しかし、家族であるからこそ自分の作った食事を口にしてもらえないというのは、とてもさみしい気持ちになることでしょう。
このような小さな感情の積み重ねは、介護生活をつらいものにしてしまいます。
宅配クック123では「食事を作る人」と「提供される人」の関係を良好なものに保つためにも、配食サービスを週に1回からでも利用してほしいと考えています。
高齢者ご本人の課題と食事を作る人の課題を分離することで、食事を作る「べき」という思考から離れて、食事を作る人が本来の自分の課題に取り組む時間を作ってほしいと感じているためです。
もちろん「刻み食」や「ムース食」などは、通常食とは異なる調理方法を取り入れる必要があるため、飲み込む力や噛む力に問題が出てきた場合は、自宅で調理をせず専門業者に任せて高齢者ご本人の食べやすい食事を提供する方がQOL(生活の質)も向上します。
課題をしっかりと分離し、がんばりすぎない介護を目指すためにも、宅配クック123の配食サービスを利用してみませんか。

まとめ
課題の分離とは自分の課題(自分でコントロールできること)と他人の課題(自分がコントロールできないこと)を分けて考えることで、他人の課題に関してはアドバイスや部分的なサポートをする援助は行っても、自分と他人との境界線を越えて介入するのは望ましくないことがわかりました。
介護の現場においては自分の課題、利用者の課題、他のケア担当者の課題をしっかりと切り分けて考えることで仕事がスムーズに進むため、ぜひ積極的に実践してみてください。