ユマニチュードは認知能力が低下した高齢者や認知症患者向けの新しいケアの技法だということは知っているけれど、具体的にどのように取り組めば良いのかよくわからない人も多いのではないでしょうか。
この記事ではユマニチュードとはどのようなケア技法なのかから在宅介護での活用方法まで詳しく解説します。
ユマニチュードとは?
ユマニチュードとは認知症におけるケア技法の1つで、1979年にフランスの体育学の専門家イヴ・ジネストとロゼット・マレスコッティにより提唱されました。
2人は体育学の観点からケアのあり方を見直していったのですが、認知能力が低下した高齢者や認知症患者のできることとできないことを見極めずにケアを行うとできることまでできなくなってしまうため、その人の持つ能力を奪わないケアを実践していったのです。
また認知能力が低下した高齢者や認知症患者にケアを受け入れてもらえない場合、「見る」「話す」「触れる」方法が受け入れてもらえた時とは異なることと、「立つ」ことで本人の尊厳が保たれることからこの4つの要素をユマニチュードにおけるケアの4つの柱としました。
そしてユマニチュードでは全てのケアを一連の物語のような手順として実施するため、これを「5つのステップ」と呼んでいます。
ユマニチュードの4つの柱と5つのステップについて、それぞれご紹介します。
ユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードの4つの柱は、ケアを担当する人が認知能力の低下した高齢者や認知症患者を大切に思っていることや尊重していることを伝えるための技法として用いられます。
ユマニチュードの実践においては4つの柱の中で複数の要素を組み合わせて用いるのですが、「複数の要素を用いたコミュニケーションによるケア」という意味からこのことをマルチモーダル・ケアと呼ぶのです。
コミュニケーションには言葉を使ったコミュニケーションである「言語コミュニケーション」と言葉以外の手段を用いた「非言語コミュニケーション」がありますが、ユマニチュードを用いたケアをする上では非言語コミュニケーションが重要だとされています。
言語コミュニケーションである「話す」と、非言語コミュニケーションである「見る」「触れる」「立つ」を組み合わせることで、ケアをする側とされる側がよりよい関係を築くのがユマニチュードの目的だと言えるでしょう。
ユマニチュードにおける「見る」
ケアをする人はケアを受ける人のケアを行う部分ばかりを見つめてしまいがちです。
しかし特定の部分のみを見るというのは、情報収集のために必要な行為ではあっても、非言語コミュニケーションの観点からすると望ましいものとは言えないでしょう。
ユマニチュードにおいて「見る」場合、次のようなことを意識しながら行います。
- ケアをする人とされる人が目線の高さを合わせる
- 正面から見る
- 近くから見る
これらは目線の高さを合わせることで「平等であること」、正面から見ることで「正直であること」、近くから見ることで「親しみを感じていること」を相手に伝えることができるために行うのです。
ユマニチュードにおける「話す」
ケアを行う人は、つい「すぐに終わりますので」といった命令とも受け取れるような言葉を使ってしまいがちです。
しかし本来ケアを行う人とケアを受ける人は対等な関係のため、このような言葉遣いは信頼関係を損ねてしまうでしょう。
ユマニチュードにおいて「話す」場合、次のようなことを意識しながら行います。
- 低めの大きすぎない声で話しかける
- 前向きな言葉を選ぶ
- オートフィードバックの手法を用いる
低めの大きすぎない声で話しかけることで「安定した関係や穏やかな状況」、前向きな言葉を選ぶことで「心地よい状態」を伝えることができます。
またオートフィードバックとは前向きな言葉でケアの実況をする手法ですが、例えば冬の寒い時期にお風呂でお湯をかける際に、「寒いのでお湯をかけて暖まりましょう」といったお声がけをすると、受け入れてもらいやすくなるのではないでしょうか。
ユマニチュードにおける「触れる」
身体介護を行う際にケアをする人はケアを受ける人の身体に触れることになりますが、新人時代こそ少し抵抗があるものの、少しずつ触れるという行為自体が日常化し相手の抵抗感をないがしろにしがちです。
このような場合、ケアを受ける人の身体をつかんでいることと自由を奪っていることを念頭に置くようにすると、触れられることには抵抗があるはずという感覚を忘れずに済むでしょう。
ユマニチュードにおいて「触れる」場合、次のようなことを意識しながら行います。
- 広い面積で身体に触れる
- 身体を強くつかまない
- ゆっくりと手を動かす
- 鈍感な場所(背中、肩など)から触れ始め、少しずつ敏感な場所(手、顔など)に移動する
いずれもケアを受ける側の心理的な抵抗感を軽減し、優しさを伝えることができます。
ユマニチュードにおける「立つ」
人間は直立することで身体の生理機能が十分に働くようにできており、1日20分間立つことでその能力は保持され、寝たきり予防にもなることがわかっているのです。
日常生活動作の中でできるだけ立つ時間を増やすことが、より「人間らしさ」を尊重したケアにもつながっていくでしょう。
ユマニチュードの5つのステップ
ユマニチュードにおいては全てのケアを1つのストーリーのような、5つのステップを踏んで行います。
5つのステップとその概要を表にまとめてみました。
ステップの種類 | 概要 |
Step1「出会いの準備」 | 事前にケアのため訪問することを知らせる段階 |
Step2「ケアの準備」 | ケアを担当することを伝え、ケアをしてもよいかどうかの許可を得る段階 |
Step3「知覚の連結」 | ユマニチュードの4つの柱を意識しケアを行う段階 |
Step4「感情の固定」 | ケアに対して良い感情を持ってもらえるよう配慮する段階 |
Step5「再会の約束」 | 次回のケアの約束をする段階 |
どのステップにおいてもユマニチュードの4つの柱を意識し、コミュニケーションを取りながらケアを進めていくことが重要だと言えるでしょう。
「ケアの準備」の段階においては最初に受けた印象が強い影響を及ぼす心理効果の「初頭効果」、「感情の固定」の段階においては最後に受けた印象が強い影響を及ぼす心理効果の「親近効果」を意識しておくと、より信頼関係が築きやすくなります。
ユマニチュードの観点を踏まえた食事援助のポイント
ユマニチュードを取り入れた食事援助では、具体的にどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。
ポイントを3つご紹介します。
食事の提供の仕方や盛り付け方を見直す
もしケアを受ける人の食があまり進まない場合、食べたいと思う気持ちを起こさせるためにはどうすればよいのかを考えてみましょう。
例えば食器、照明、盛り付け方、一緒に会話をしながら食べるなどの工夫をすることが、ケアを受ける人の気持ちに沿った食事提供ができる第一歩となります。
1つ1つの動作を言葉で説明する
オートフィードバックの手法を食事援助でも取り入れ、例えば「今日はひな祭りなのでちらし寿司を作りました。よろしければご一緒にいかがですか?」といった食事に対する前向きな言葉を選んでお声がけをしてみましょう。
すぐに食事を口には運んでくださらなくても、食事に対して興味を持ってもらえるきっかけ作りとなります。
手続き記憶を呼び起こす
手続き記憶とは認知症の人でも衰えにくい長期記憶の1つで、繰り返し練習することで身体が覚える非言語的な記憶です。
例えば朝食の前に服を着替えて洗顔、手洗いをする習慣がある人の場合、その手順を踏むことで手続き記憶が呼び起こされ、自然と食事が摂れるようになることもあるでしょう。
ユマニチュードを用いた食事援助の事例研究
ユマニチュードを用いた実際の食事援助の事例にはどのようなものがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
食事中に寝てしまう場合
認知症による不眠や中途覚醒などで、食事中でも傾眠状態になる人はよく見受けられます。
都度お声がけをするという対応をする場合も多いのですが、驚かせてしまったり、煩わしいと感じさせてしまったりすることもあるため、手でつまんで食べられる海苔巻きやパンなど食べることに集中しやすいメニューを作成するのもよいでしょう。
食べ物を投げたり捨てたりする場合
せっかく作った食事を投げたり捨てたりされるのはケアをする人にとって悲しくつらいことですが、どうしてそのようなことをしたのかを考えてお声がけをすると、落ち着いて食べられることもあるのです。
例えば食事を投げてしまった際、「豆まきのようですね」と話しかけてみた所その話がふくらみ、険しかった表情が元に戻るといったことも見受けられます。
食事を食べてもらえない場合
認知症で判断力が低下すると、複数のお皿からどれを選んで食べればよいのかわからなくなり、結果として食事を摂らなくなってしまうことがあります。
そのような場合1皿ずつ選んで手に持っていただくことで、スムーズに食事を摂ることができるでしょう。
宅配クック123は新たなケア技術・考え方を積極的に導入しています
宅配クック123ではユマニチュードはもちろんですが、食事に関する新たなケア技術や考え方を積極的に導入しています。
例えばお弁当は必ず手渡しとすること、「やわらか食」を農林水産省が推進する新しい介護食品である「スマイルケア食」の基準で作成することなど、常に進化し続ける食事援助の方法にしっかりと対応し続けていくことが大切だと考えているためです。
よりよい食事援助を目指しながらがんばりすぎない介護をするためのお手伝いがしたい。
宅配クック123はそんな風に考えています。
まとめ
ユマニチュードは認知症におけるケア技法の1つで、「話す」「見る」「触れる」「立つ」の4つの柱を組み合わせて5つのステップで行われますが、食事援助のシーンにおいてもさまざまなメリットがあるケア技法だとわかりました。
ケアをする上で心地の良いコミュニケーションを取るために、ぜひ積極的にユマニチュードを活用してみてください。