高齢者は年齢を重ねるのがいやで、誕生日が来るたびにゆううつな気持ちになっているのではないかと考える人は少なくないのではないでしょうか。
この記事ではそのような思い込みを払拭するエイジングパラドックスについて詳しく解説します。
エイジングパラドックスとは?
エイジングパラドックスとは、高齢者が身体的な衰えや喪失体験を多くするにもかかわらず、心理的な幸福感は増していくという現象を指します。
2020年にPGF生命が20才~79才の男女を対象に行った「人生の満足度に関する調査2020」によると、今年の生活満足度は60代・70代男性において「非常に満足している」と回答した人が4.0%、「やや満足している」と回答した人が32.0%でした。
また60代・70代女性においては「非常に満足している」と回答した人が8.0%、「やや満足している」と回答した人が29.0%だったのです。
男女とも60代・70代の人は生活に満足している割合が高く、特に60代・70代女性は「非常に満足している」と答えた人の割合が全世代を通じて1位という結果でした。
このことから高齢者の方は現在の生活に満足し、幸せを感じながら生きている様子がうかがえます。
エイジングパラドックスが起こる理由とは?
エイジングパラドックスは、どのような理由で起こると考えられているのでしょうか。
3つご紹介します。
第1モデル
エイジングパラドックスが起こる1つめの理由は、SOC理論で説明することができます。
SOC理論とはSelective Optimization with Compensationの頭文字を取った言葉で、日本語では選択最適化補償理論と訳すことができ、老いに適応するための方法としてドイツの心理学者であるポール・バルテスによって提唱されました。
SOCそれぞれをもう少し詳しく見てみましょう。
SOC理論の「S」について
SOC理論の「S」とはLoss-based Selection(喪失に基づく目標の選択)を指します。
具体的には、若いころにはできていたことが身体機能の喪失などによりできなくなるため、目標を見直し、今の自分に合ったものに変化させるのです。
これにより高齢者の方が目標を達成しやすくなるため、幸福感を得られやすくなると言えるでしょう。
SOC理論の「O」について
SOC理論の「O」とはOptimization(資源の最適化)のことです。
具体的には選んだ目標に対して身体の残存機能や時間を最適化して配分します。
これにより高齢者の方が現在の状況に効率良く対応できるようになるため、幸福感を得やすくなるでしょう。
SOC理論の「C」について
SOC理論の「C」とはCompensation(補償)のことです。
具体的には他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった機器や技術を利用したりして喪失したものや能力の低下を補います。
これにより新たなことへの挑戦の機会や、新しい人間関係ができる可能性があるため、前向きな気持ちや幸福感を得やすくなるでしょう。
第2モデル
エイジングパラドックスが起こる2つめの理由は、物事を考える際の枠組みを変えることで別の視点を持ち、自分を納得させられるようになるためです。
このことを心理学用語でリフレーミングと言いますが、自分の感じ方をコントロールしどのような出来事でもプラスに変換して捉えることができるようになります。
このため高齢者の方は気持ちがポジティブになり、幸福を感じやすくなるのです。
第3モデル
エイジングパラドックスが起こる3つめの理由は、高齢者の心理的な発達段階の1つである老年的超越に達するためです。
老年的超越(gerotranscendence)とは、現実に存在する物質的・合理的な世界観から宇宙的・非合理的・超越的な世界観への変化を指す社会学の用語で、1989年にスウェーデンの社会学者ラルス・トルンスタムによって提唱されました。
老年的超越の特徴は次の通りです。
- 社会関係の側面では過去に持っていた社会的地位や役割にこだわらなくなる
- 自己の側面では自分の欲求をかなえたいという自己中心性や自尊心が良い意味で低下し利他性が高まる
- 宇宙的意識の側面では自分の命が過去から未来への大きな流れの一部であることを意識し時間や空間を飛び越えた考え方ができるようになる
高齢者の人は老年的超越により、時間や場所へのこだわりがなくなり自分より他者を重んじる心を持つようになることから幸福感が高まるのです。
高齢者が幸せに暮らすためのヒント「サクセスフル・エイジング」とは?
2019年にフランスの大手資産運用会社であるナティクシス・インベストメント・マネージャーズが発表した「世界老後指数ランキング2019」では日本は44か国中23位と中位で、あまり芳しくない結果でした。
老後指数とは老後の財政、物質的な幸福度、健康医療そして生活の質の4分野にわたる18項目を調査して数値化したものですが、日本は長寿率では1位なのに、出生率は最下位という極端な順位が特徴的で、幸福度においてはランキングの下から8番目という結果だったのです。
このような現状を鑑みて、これから高齢者の方がエイジングパラドックスにばかり頼ることなく老後の生活を楽しむためにはどうすればよいのでしょうか。
幸せな老後を暮らすためのヒント、サクセスフル・エイジングについてご紹介します。
サクセスフル・エイジングを構成する要素
サクセスフル・エイジングは1961年にアメリカ老年学会が発行した「The Gerontologist創刊号」において、「Successful Aging」と題する論文が発表されたのをきっかけに注目された言葉であるため、日本語で正確に訳すことができないとされていますが、「生きがい」や「幸せな老い」が近い意味ではないかと言われています。
サクセスフル・エイジングを構成する要素は研究者の中でも意見が分かれていますが、大まかな内容
を表にまとめてみました。
サクセスフル・エイジングの構成要素 | 内容 |
生活の質(QOL) | ・身体の健康 ・機能的な健康(日常生活動作=ADLの保持など) ・認知能力 ・時間の消費(レクリエーションなど) ・社会的行為(リーダーシップの発揮など) |
社会貢献(Productivity) | ・有償労働 ・無償労働 ・相互扶助 ・ボランティア活動 ・保健行動 |
サクセスフル・エイジングの構成要素については、現在進行形で研究が進められていることを覚えておきましょう。
サクセスフル・エイジングのモデル
サクセスフル・エイジングを提唱したアメリカにおいても、生き方の統一モデルが示されているというわけではありません。
主に社会学、医学、心理学の領域で高齢者や加齢についての研究者が自分の専門的立場からそれぞれのモデルを提唱しています。
社会学、医学、心理学、また高齢者の主観評価を重視する生き方モデルについてご紹介します。
社会学におけるモデル
社会学の分野において1961年にカミングとヘンリーによって初めて提唱されたモデルが「離脱理論」です。
離脱理論は高齢者になったら若い人に道を譲ることが理想の老い方であるとしたもので、社会システムを維持するためには権力を移行し、高齢者が社会から離脱することが必要であることから比較的現実に即した考え方だと言えるでしょう。
次に離脱理論とは逆の立場で、1968年にロバート・J・ハヴィガーストらによって提唱されたのが「活動理論」です。
活動理論は年齢に関わらず社会で活躍し続けることが理想の老い方であるとしたもので、活動的であることを良しとするアメリカン・スピリッツを反映した考え方だと言えるでしょう。
そして最後に1987年にアチュリーによって提唱されたのが「継続性理論」です。
継続性理論は高齢者が過去の経験や人間関係を活かしてそのまま社会的な役割も果たすのが望ましい老い方であるとしたもので、人間の自然老化を高齢者の社会性に応用した考え方だと言えるでしょう。
医学におけるモデル
医学の分野において1987年にローとカーンが提唱したモデルでは、加齢による変化は人が制御することが可能なリスク要因によって生まれるため、それを排除することができると考えます。
そのため次の要件を全て満たしている状態がサクセスフル・エイジングであるとしているのです。
- 疾患や障害がないこと
- 高い認知機能や身体機能を維持していること
- 社会参加をしていること
このモデルではほとんどの高齢者がサクセスフル・エイジングを実現していないことになってしまうため、今後定義を拡大することが必要となってくるでしょう。
心理学におけるモデル
心理学の分野においてリフが提唱したモデルでは、成長・発達という観点から想定される良好な心理的状態をサクセスフル・エイジングだと考えます。
良好な心理的状態の構成要素とは次の6つです。
- 自己受容
- 人生の意味
- 環境制御
- 人間的成長
- 自律性
- 肯定的人間関係
また前項目で解説した「SOC理論」も、心理学の分野ではサクセスフル・エイジングのために重要な考え方だと位置づけられています。
高齢者の主観評価を重視するモデル
高齢者の主観評価を重視するモデルでは、高齢者が主観的に良好であると感じる状態をサクセスフル・エイジングだと考えます。
代表的な指標にはニューガーデンらによって開発された生活満足度があり、サクセスフル・エイジングには「幸福であるという感情を持っていること」「現在と過去の生活に満足していること」が必要だとされています。
ただしこのモデルには客観的な視点から見ると困難な状況にあっても、本人が幸福と感じるという課題もあることを覚えておきましょう。
宅配クック123では食べる幸せを大切にしたいと考えています
宅配クック123では高齢者の方の幸福感を高めるため、自分で食べることを大切にしたいと考えています。
例えばお弁当の容器ですが、歩行が不安定な高齢者の方でも片手で持てるよう、軽さを重視した作りになっています。
またお弁当のふたも、リウマチや片麻痺などで指先が動かしにくい方でも開けやすいよう工夫が施されているのです。
自分で配膳してふたを開け、好きな食材を選んで食べるという食事の基本的な楽しみを高齢者の方にずっと持っていてほしいという気持ちを込めて、私たちは今日も高齢者の方のお住まいにお弁当をお届けしています。

まとめ
エイジングパラドックスとは、高齢者が身体的な衰えや喪失体験を多くするにもかかわらず、心理的な幸福感は増していくという現象ですが、ケアの現場においてはこのことに頼りすぎることなく高齢者の方の生活の質を高めるサポートをすることが大切だとわかりました。
ぜひエイジングパラドックスについて理解を深め、今後のケアにも活かしてみてください。