要介護者が問題行動を起こした際、ケアを担当する人たちはどうにか行動を変えてもらえないかと頭を悩ませることでしょう。

この記事ではそんな時の解決策の1つとなる、オペラント条件づけについて詳しく解説します。

オペラント条件づけとは?

オペラント条件づけとは報酬や懲罰に対する自発的な行動の変化のことを指し、道具的条件づけやスキナー型条件づけとも呼ばれ、行動主義心理学の基本的な理論として位置づけられています。

1898年にアメリカの心理学者・教育学者であるエドワード・L・ソーンダイクにより行われた試行錯誤学習の実験で研究が開始されましたが、1938年にアメリカの心理学者で行動分析学の創始者であるバラス・フレデリック・スキナーが体系的な研究を行いました。

バラス・フレデリック・スキナーは絶食させたネズミを用い、次の手順で実験を行います。

  1. ケージにネズミを入れるが、ブザーが鳴った時にボタンを押すとえさが出る仕組みとなっている
  2. ネズミはブザーが鳴った時にボタンを押し、えさを手に入れる経験をする

バラス・フレデリック・スキナーは、ブザーが鳴るという「先行刺激」を受けた際に、えさを手に入れるという「結果」を目的としてボタンを押すという「行動」を取るのを学習することをオペラント条件づけとし、このように結果を目的としてネズミが学習した行動をオペラント行動と定義づけたのです。

また、オペラント条件づけは三項随伴性の考えに基づいています。

三項随伴性とは次の3つの英語の頭文字を取ってABC分析とも呼ばれます。
① Antecedent(刺激)
② Behavior(行動)
③ Consequence(結果)

結果によって行動が強化されたり弱化されたりして変化することを随伴性と呼び、随伴性のある行動としてオペラント行動が位置づけられるのです。

オペラント行動には4種類あるため表にまとめてみました。

オペランド行動の4種類概要
正の強化快刺激を得て行動頻度が増えること
正の弱化・正の罰嫌悪刺激を得て行動頻度が減ること
負の強化嫌悪刺激を受けて行動頻度が増えること
負の弱化・負の罰快刺激を受けて行動頻度が減ること

ある刺激が出現(正)または消失(負)した結果、行動頻度が増加する(強化)か減少(弱化・罰)することがオペラント行動だと考えるとわかりやすいでしょう。

また行動の強化を促した結果を好子または強化子、行動の弱化を促した結果を嫌子または罰子と呼びます。

オペラント条件づけと古典的条件づけの違い

オペラント条件づけと混同されやすいのが古典的条件付けですが、この2つにはどのような違いがあるのでしょうか。

古典的条件付けとは、行動を引き起こす報酬や懲罰などの刺激を増やすことを指し、レスポンデント条件付けやパブロフ型条件付けとも呼ばれ、オペラント条件付けと同様行動主義心理学の基本的な理論として位置づけられています。

1903年ロシアの生理学者であるイワン・パブロフが、実験として犬に餌をあげる前にメトロノームの音を聴かせるということを繰り返した所、犬はメトロノームの音を聴くだけで唾液が分泌されるようになりました。

犬に餌をあげる行為は人間が本来持っている無条件反射(唾液の分泌)を引き起こすため無条件刺激と位置付けられますが、これに加えて無条件反射を起こさないはずの中性刺激(メトロノームの音)を加えて繰り返すことで、中性刺激のみで唾液の分泌という反応が起こるのです。

オペラント条件付けでは報酬や懲罰などの刺激に対し行動の頻度が変化しますが、古典的条件付けでは行動を引き起こす報酬や懲罰などの刺激を新たに中性刺激という形で増やしているのがわかるでしょう。

オペラント条件づけを介護の現場で活かす方法

オペラント条件付けを介護の現場で活かすには、どのような方法があるのでしょうか。

心理療法の中には行動に焦点を当てた行動療法というものがあり、これは生活する上で問題となる行動を改善し、健康的な行動へと変化させる手法です。

行動療法には、オペラント条件づけの考えを取り入れた手法がいくつかあるため、代表的なものを4つご紹介します。

トークンエコノミー法を取り入れてみる

トークンエコノミー法とは、人間が望ましい行動をした際に報酬を与えることで日常の中でその行動頻度を増やしていく方法で、トークンとは報酬のことを指します。

ジョージア州立大学名誉教授テオドロ・エイロン博士とノヴァ・サウスイースタン大学教授のネイサン・アズリン博士によって、1968年に出版された「トークンエコノミー(The Token Economy)」という本の中で提唱されました。

トークンエコノミー法を介護の現場で用いるメリットは次の3つです。

  • 報酬がほしい要介護者のやる気を引き起こすことができる
  • 問題行動があった際は報酬を取り上げるシステムにすることで問題行動を抑えられる
  • 設定されたルールを理解できる人であれば誰にでも適用できる

例えば家では毎日飲酒をしている要介護者の方が、ショートステイで利用する施設にお酒を無断で持ち込もうとした場合、行事の時は例外的に上限を決めて飲酒を許可するので今後はお酒を持ち込んだり、他の人に飲酒を勧めたりしないことを約束した所、ぴたりと無断持ち込みがおさまったという事例があります。

この事例の場合は要介護者の施設での滞在期間が2週間ほどとそれほど長くなかったことと、自分だけが例外的に飲酒を許可されたというのをしっかりと認識していただいたことが行動の早期改善につながったと言えるでしょう。

シェイピング法を取り入れてみる

シェイピング法とは人間が目標となる行動を達成するために、最初からその目標を目指すのではなく行動を小さな段階(スモールステップ)にわけ、その段階に達したら都度報酬を与えることで最終的に目標となる行動を達成させる方法です。

アメリカの心理学者で行動分析学の創始者でもあるバラス・スキナーによって提唱されました。

シェイピング法を介護の現場で用いるメリットは次の2つです。

  • スモールステップに目標を細分化しているため、要介護者にできるかもしれないという気持ちになってもらいやすい
  • 要介護者がストレスを感じにくい

例えば施設全体でおむつ利用者を20%減らそうという目標を立てた場合、トイレ使用に移行できそうな要介護者は誰かを話し合うことから始め、ご本人への相談、日中のおむつから尿取りパッドへの変更、夜間のポータブルトイレ対応の開始、最終的にトイレ使用とスモールステップを踏むことで成功した事例があります。

この事例の場合はご本人との調整を丁寧に行い、介護士全体が連携を組んで「できたら褒める」というのをしっかりと行ったことで成功につながったと言えるでしょう。

タイムアウト法を取り入れてみる

タイムアウト法とは人間が望ましくない行動を取った際に、注目という報酬を取り去ることでその行動を強化しないようにする手法です。

アメリカでは子供に対するしつけの手法としてもよく取り入れられています。

タイムアウト法を介護の現場で用いるメリットは次の2つです。

  • 問題行動があった時に一人で過ごすことで冷静さを取り戻してもらえる
  • 場所を選ばずに行うことができる

例えば施設で介護士に対して要介護者が暴力を振るった場合、広い部屋で一人になっていただき遠くからご本人には気づかれないように見守りを行い、1時間ほど経過した食事のタイミングで再度お声がけをしたところ機嫌が直ったという事例があります。

日頃から暴力をふるうのを止めてほしいと娘さんを通じてお伝えしていたことと、年齢×分数と言われるタイムアウトにかかる時間もたまたま合致したため、暴力を止めるのに成功したと言えるでしょう。

セルフモニタリングを取り入れてみる

セルフモニタリングとは目標に対してその経過を記録し、客観的に自分自身の行動を評価していく方法のことを指します。

1974年に心理学者のスナイダーは、周囲の状況や他者の行動に基づいて自分自身の行動を振り返る能力には個人差があることに気づき、セルフモニタリングを提唱したのです。

セルフモニタリング能力の高い人は状況に合わせて適切な行動ができますが、セルフモニタリング能力の低い人は自分に正直で不器用な面を持つと言えるでしょう。

セルフモニタリングは自分の行動を記録してもらう必要があるため、介護の現場で活かすのは少し難しいかもしれませんが、要介護者がセルフモニタリング能力が高いかどうかを把握しておくと、その人の人格を尊重した介護につながるのではないでしょうか。

宅配クック123では食事と心のつながりを大切にしています

宅配クック123では、食事と心のつながりを大切にしています。

例えば配食サービスを広く提供するということだけに目を向けて事業展開をするなら、ホームページやSNSなどでもっと派手な宣伝活動をするのがよいのかもしれません。

しかし、宅配クック123では、お客様にとって一番暖かくてうれしい食事とはご家族が作り一緒に食べる食事だと考えているため、お客様にとってNO.1の食事になることをそもそも目指していないのです。

お客様がまたご家族と一緒に食事を楽しむという「報酬」が得られるまでの時間を、毎日栄養バランスの取れた食事を食べていただくというスモールステップで少しでも支えたい。

宅配クック123ではそんな風に考えています。

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まとめ

オペラント条件づけとは報酬や懲罰に対する自発的な行動頻度の変化のことを指し、介護の現場においては行動療法に基づくトークンエコノミー法、シェイピング法、タイムアウト法、セルフモニタリングの4つの方法が活用できることがわかりました。

オペラント条件づけは心理学の中でも少し難しい理論かもしれませんが、この記事も参考にして内容をしっかりと理解し、仕事の中で役立ててみてください。