医療職、介護職、心理職などの対人援助職の人たちは、ケアを受ける側の人たちの心に寄り添いそれぞれの持つ技術や経験を活かして援助を行いますが、その人たちが陥りやすい心理状態というものがあります。

この記事では対人援助職の人たちが知っておきたいメサイアコンプレックスについて詳しくご紹介します。

コンプレックスとは?

メサイアコンプレックスとは心理学の用語で、コンプレックスの中の1つとして定義づけられているため、まずコンプレックスとは何かについて理解しておく必要があります。

コンプレックスとは衝動・欲求・観念・記憶などによって構成されるさまざまな感情の複合体で「感情複合」とも呼ばれ、普段は抑圧されているため意識されないものの、人間の現実の行動へは影響力を持っています。

日本ではオーストリアの心理学者であるアルフレッド・アドラーが提唱した「劣等複合」が戦後に広まったため、コンプレックスというと劣等感と考える人も少なくありませんが、コンプレックスには次のようにさまざまな種類があります。

コンプレックスの種類概要
ファザーコンプレックス子供が父親に対して強い執着や愛着を持つ心理状態
マザーコンプレックス青年が母親に対して強い執着や愛着を持つ心理状態
エディプスコンプレックス子供が母親に強い執着や愛着を示し父親に対して対抗心を抱く心理状態
ロリータコンプレックス幼女・少女に対する執着や愛着
正太郎コンプレックス少年や小さい男の子に対する執着や愛着

比較的よく耳にするコンプレックスの内容を表にまとめましたが、他にも多数のコンプレックスが存在するということを覚えておきましょう。

メサイアコンプレックスとは?

メサイアコンプレックスとは無意識のうちに誰かの救世主となることで、自己肯定感の低さ、罪悪感、劣等感、無価値観を払拭しようとする心理状態のことを指します。

「誰かを援助したい」と「自分は価値のない人間である」という一見正反対の感情が無意識の中に同時に潜んでいることと、誰かを援助するという行動自体は社会的には望ましいため、本人も周囲の人も気づきにくいのが特徴的だと言えるでしょう。

メサイアコンプレックスに陥る原因について

人間はなぜメサイアコンプレックスに陥ってしまうのでしょうか。

原因を3つご紹介します。

アイデンティティが確立されていないため

心理学において「自分が何者なのか」という概念をアイデンティティと言います。

多くの人は13才~20才前後の青年期において自分が何者なのかを肯定的に、また確信的に応えられるようになり、自らを社会の中で位置づけていきますが、メサイアコンプレックスに陥る人はこのアイデンティティが確立されていません。

アイデンティティを確立するためには、自分の好ましい面だけではなくあまり好ましいとは言えない面も含めて理解することが必要ですが、メサイアコンプレックスに陥る人はこのようなありのままの自分には現実感を持つことができないのです。

自分自身に現実感がないため、「誰かの救世主となる」という発想をとてつもないものとは感じず、そのまま行動に移してしまいます。

優越願望が強いため

優越願望とは1992年アメリカの政治経済学者フランシス・フクヤマが著書「歴史の終わり」で提唱した言葉で、他人よりも上に立ちたいという野心、向上心、勝利への執着心を指します。

メサイアコンプレックスに陥っている人は自分を無意識のうちに誰かの救世主と位置付けてしまうほど、この優越願望が強いのです。

劣等感が強いため

劣等感とはオーストリアの精神科医で心理学者のアルフレッド・アドラーによって提唱された概念で、理想の自分と現実の自分のギャップにより、主観的に自分は劣っていると感じることを指します。

メサイアコンプレックスに陥る人は他の人に優越できない自分に深い劣等感を持っているのです。

メサイアコンプレックスの人の特徴

メサイアコンプレックスの人にはどのような特徴があるのでしょうか。

5つご紹介します。

他者の課題に介入しようとする

メサイアコンプレックスの人は他の人を救うことが自分の生きがいとなっているため、他の誰かの課題に介入しようとします。

介入とは自分と他人との間に惹いた境界線を踏み越えることを指すため、人間関係のトラブルを引き起こしやすいのです。
相手のためではなく自分のために「介入してまで」人助けを行うため、偽善者や恩着せがましい人と感じる人も多いのではないでしょうか。

例えばメサイアコンプレックスの人が介護士の場合、要介護者が自分でできることまでサポートしようとするといった行動に現れるでしょう。

感謝を要求してくる

メサイアコンプレックスに陥っている人は、感謝されることで幸福感を得たいと考え全力を尽くすため、相手
に感謝を要求したり、感謝しないととたんに不機嫌になったりします。

多くの場合は相手が望んでいる行動ではなくありがた迷惑となっていますが、自分は感謝されて当然といった振る舞いをすることもあるでしょう。

困っている人を常に必要とする

メサイアコンプレックスの人は困っている人を助けることが自分のアイデンティティであるかのように感じているため、困っている人を常に探し続けます。

そのため困る人が常に生まれ続ける環境を作ったり、敢えて他人を困らせるような行動を取ったりするのです。

このことからメサイアコンプレックスの人が対人援助職に就きたがる場合、常に自分のサポートを必要とする人を周囲に置いておきたいと考えている可能性もあると言えるでしょう。

他人の助言を受け入れない

メサイアコンプレックスの人は「これが正しい」「これがこの人のためである」といった思い込みが強い傾向にあるため、他人の助言を素直に受け入れることができません。

また困っている人が周囲からいなくならないようにするため、他人の助言を受け入れないという選択をする場合があります。

自分を犠牲にしがちである

メサイアコンプレックスに陥ると、相手から必要とされる幸福感を得たいあまりに自分を犠牲にしてまで助けることがあります。

自分でも疲労感やこれはおかしいといった違和感を抱くこともありますが、他の人に貢献することでしか自分を満たせないので自己犠牲をやめることができません。

メサイアコンプレックスを克服する方法とは?

メサイアコンプレックスに陥った場合、どのようにしてそれを克服すればよいのでしょうか。

3つご紹介します。

自己肯定感を高める

メサイアコンプレックスの人が人助けをする原動力は劣等感のため、自己肯定感を高めることで問題となる行動を減らしていくことができます。

自己肯定感を高めるというのはなかなか難しいことですが、まず自分を大切にし心地よく健康でいられる空間を作るために、掃除や食事作りなど小さなことから始めてみるとよいでしょう。

課題の分離をする

メサイアコンプレックスの人は他の人の課題を自分の課題のように捉えて介入してしまうため、ありがた迷惑やお節介と捉えられ、結果的に欲しかった感謝は得られず人間関係にトラブルを引き起こしてしまいます。

そのためまずは他の人の課題はその人の成長のためにあり、解決するかどうかも含めて本人が決めることだと理解することから始めてみましょう。

自分の課題と他の人の課題を分けて考えることを「課題の分離」と言いますが、これをしっかり意識することが大切です。

課題の分離についてもう少し詳しく知りたい人は、次の記事もごらんください。

認知のゆがみを自覚する

ある出来事に対する考え方のパターンを心理学の用語で「自動思考」と呼びますが、メサイアコンプレックスの人はこの自動思考に癖があるため、認知のゆがみを引き起こしています。

例えば他人が勝手に困っていると決めつけ、かわいそうなので助けなければという使命感にかられるといったことがそれにあたるのです。

自動思考を認知のゆがみのない、多くの場面で適用しやすい考え方に変化させていくことを認知行動療法と呼びますが、認知のゆがみを自覚できればこのような治療を受け、自分を変えていくこともできるのではないでしょうか。

メサイアコンプレックスの人への対処法

周囲にメサイアコンプレックスに陥っている人がいた場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

3つご紹介します。

距離を置く

メサイアコンプレックスの人は距離を置かれることで無意識に「この人は助けられない」と感じ、興味を失うことがあります。

そのためメサイアコンプレックスの人と関わるのが難しいと感じたら、まずは距離を置いてみましょう。

相手の言葉を鵜呑みにせず周囲にも相談する

メサイアコンプレックスの人は誰かを助けたいという思いが行動に表れているため気づきにくいのですが、潜在意識では他人を従属させて優越願望を満たしたいと考えています。

そのためメサイアコンプレックスの人の言葉を鵜呑みにせず、周囲の人にも相談して別の意見や見解を自分の中に取り入れておくことが大切です。

説得しようとしない

メサイアコンプレックスの人は「困っている人は助けるべきである」という強い自動思考による認知のゆがみを抱えているため、無理に説得してそれをやめさせようとすると感情的になり、逆上してしまうことも考えられるでしょう。

メサイアコンプレックスの人を説得するのは、大きなリスクがあることを覚えておきましょう。

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毎日お弁当をお届けし、親しくおつきあいをさせていただく中でもお客様を尊重し、お客様のテリトリーに土足で踏み込むようなことはあってはならないと思っているためです。

宅配クック123では、メサイアコンプレックスに陥らないように自戒しながら、今日も元気にお弁当をお届けしています。

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まとめ

メサイアコンプレックスとは無意識のうちに誰かの救世主となることで、自己肯定感の低さ、罪悪感、劣等感、無価値観を払拭しようとする心理状態のことを指しますが、他者の課題に介入しようとすることでトラブルを引き起こしやすいため、認知のゆがみを本人が自覚すること、そして周囲は無理に説得しないことが大切です。

この記事も参考にし、ぜひメサイアコンプレックスに対して理解を深めてみてください。