仕事で認知症の人のケアに携わっているけれど、コミュニケーションが難しくて悩んでいるという人はいませんか?
この記事では、そんな人に知ってほしいバリデーションについて詳しくご紹介します。
介護におけるバリデーションとは?
英語のバリデーション(validation)は元々日本語では実証、検証、認可、批准、妥当性確認などと訳され、使われる業界により次のように意味が異なります。
業界の種類 | バリデーションの意味 |
介護業界 | ・アルツハイマー型認知症および類似の認知症高齢者とコミュニケーションを行うための技法の1つ |
医薬品業界 | ・改正GMP省令の第2条で「製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすること」と定義づけられている |
IT業界 | ・入力されたデータや言語の記述が規定された仕様や文法に即して適切であるかどうかを検証すること |
介護業界におけるバリデーションとは認知症高齢者に共感して耳を傾け、評価することなく認知症高齢者にとっての現実を受け入れてコミュニケーションを行うことです。
アメリカのソーシャルワーカーのナオミ・ファイル氏が要介護者の世界を理解するのを目的として構築し、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、オーストラリアなど3万件以上の高齢者施設で実践されてきました。
2008年では日本でもバリデーションを教えることのできる資格を持つ「バリデーション・ティーチャー」が誕生し、介護業界で有資格者を中心に少しずつバリデーションが広まり始めています。
参考:一般社団法人公認日本バリデーション協会「バリデーションとは」
参考:e-GOV法令検索「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」
バリデーション、ユマニチュード、パーソン・センタード・ケアの違い
バリデーション、ユマニチュード、パーソン・センタード・ケアの違いは次の通りです。
概要 | 対象者 | 目的 | メリット | |
バリデーション | ・認知症高齢者に共感して耳を傾け、評価することなく認知症高齢者にとっての現実を受け入れてコミュニケーションを行うケア | ・アルツハイマー型認知症の高齢者 ・類似の認知症高齢者 | ・認知症高齢者に感情を表現してもらいそれに共感しながらコミュニケーションを行う ・やり残した人生の課題への取り組みを支援する | ① 認知症高齢者 ・ストレスや不安の軽減 ・認知症の症状の緩和 ・自尊心の回復 ・他者や社会との交流の復活 ・ポジティブな感情になれる ② 家族や介護者 ・認知症高齢者を受容しやすくなる ・フラストレーションの軽減や解消 ・認知症高齢者との信頼関係の構築 |
ユマニチュード | ・認知症高齢者の持つ人間らしさを尊重するケア | ・認知症高齢者 | ・認知症高齢者の持つ能力を奪わない | ① 認知症高齢者 ・その人らしさが尊重された心豊かな生活を実現する ・自立度の向上 ・認知症の症状の緩和 ② 介護者 ・介護負担の軽減 ・やりがい、働きがいの向上 ・スキルが評価される |
パーソン・センタード・ケア | ・認知症高齢者を中心としたケア | 認知症高齢者 | ・認知症高齢者の持つその人らしさ(意識や感情)の尊重 | ① 認知症高齢者 ・認知症の改善 ② 介護者 ・認知症高齢者を深く理解し適切な介護につなげられる |
バリデーションは認知症高齢者の「感情」、ユマニチュードは認知症高齢者をありのままに受容すること、パーソン・センタード・ケアは認知症高齢者を中心として考えることに焦点を合わせたケアの技法だと言えるでしょう。
ユマニチュードについてもう少し詳しく知りたい方は、次の記事もごらんください。
バリデーションの3つの要素
介護におけるバリデーションには理論(原則)、基本的態度、テクニックの3つの構成要素があるため、それぞれご紹介します。
バリデーションの理論(原則)
バリデーションの理論(原則)とは、「全ての行動には理由がある」という考えの土台となる11の基本的な考え方を指すので、それぞれ解説します。
項目 | 概要 |
共感的理解 | ・信頼関係を築き、不安を減らし、尊厳を取り戻すために共感しながら話を聴く |
個別性の尊重 | ・全ての認知症高齢者には個性的で価値があるためそれを尊重する |
全面受容 | ・認知の混乱や見当識障がいのある認知症高齢者をあるがままに受け入れる |
感情表出 | ・辛い気持ちや悲しい気持ちの感情を聴き手となって受け止める |
行動には理由がある | ・認知の混乱や見当識障がいといった行動には理由がある |
認知症高齢者の基本的欲求 | ・認知の混乱や見当識障がいといった行動の理由は基本的欲求の可能性がある |
コーピング(対処法) | ・言語能力や最近の記憶が失われると若い時に身に着けた行動がよみがえる |
シンボル | ・認知の混乱や見当識障がいのある認知症高齢者が使う個人的なシンボルは思いのこもった過去の人、もの、概念の代わりとなる現在の人である |
気づきのレベル | ・認知の混乱や見当識障がいのある認知症高齢者は真実を知っている |
過去への逃避 | ・五感が失われた認知症高齢者は想像力で過去を見て、過去の音を聴く |
ひきがね | ・できごと、感情、色、音、におい、味、映像によって、認知症高齢者に感情が起こり、それが引き金となり過去経験した感情と似た感情が出てくる |
11の考え方はどれも認知症高齢者の行動の理由を想像するのに役立つ観点となっているので、認知症の方とコミュニケーションがうまくいかない場合、これらに立ち戻って考えてみるとよいでしょう。
バリデーションの基本的態度
バリデーションの基本的態度とは、認知症高齢者にとって信頼できる聴き手となるための5つの振る舞いを指します。
項目 | 概要 |
傾聴する | ・話を相手の立場に立って聴き、評価しない ・認知症高齢者にも自分にも誠実でいるためわからないことはきちんと質問する |
共感する | ・気持ちに共感しながら理解しようとする |
誘導しない | ・認知症高齢者のペースに合わせる |
受容する | ・あるがままに受け止める |
うそをつかない | ・信頼関係を損ねるような行為はしない |
普段の人間関係においても必要な要素ばかりなので、バリデーションを行うかどうかにかかわらずできていないことがあれば改めるようにしましょう。
バリデーションテクニックとは?
バリデーションテクニックとは、バリデーションを行うにあたって用いる具体的な14の手法のことを指します。
言語的テクニック
項目 | 概要 |
リフレージング | ・認知症高齢者の言葉で重要なものを繰り返すこと |
レミニシング | ・過去について質問し思い出話をしてもらう |
極端な表現をする | ・極端なケースを想像してもらうことで感情を出しやすくする |
反対のことを想像する | ・逆のことを想像してもらうことでネガティブな感情をポジティブに変える |
曖昧な表現を使う | ・認知症高齢者が何を言っているのかわからない時曖昧な表現でコミュニケーションを続ける |
好みの感覚を使う | ・五感の中で認知症高齢者が好きな感覚を想い起こせる話題を振る |
低くはっきりとした優しい声で話す | ・低い優しいトーンで滑舌良く話す |
オープンクエスチョン | ・「はい」「いいえ」で応えられる質問ではなく自由に回答できる質問をする |
非言語的テクニック
項目 | 概要 |
センタリング | ・精神を統一し集中する |
アイコンタクト | ・正面に座って目を合わせる |
ミラーリング | ・動作や姿勢、話し方などをまねする |
タッチング | ・認知症高齢者が触られることに抵抗がない場合話の内容や目的に応じて肩や手などに触れる |
音楽を使う | ・好きな歌や思い出の曲を一緒に聴いたり歌ったりする |
満たされていない人間的欲求と行動を結び付ける | ・不穏な行動を取った時「愛されたい」「人の役に立ちたい」「感情を発散したい」という3つの欲求に行動を照らし合わせて考える |
バリデーションテクニックを身に着けることで、より認知症高齢者の気持ちに沿った対応ができるでしょう。
参考:三田村知子「認知症高齢者とのコミュニケーション『バリデーション』に関する研究動向」
バリデーションの資格を取得するには?
一般社団法人公認日本バリデーション協会では、バリデーションの理論やテクニックを3段階で身に着けることのできるセミナーコースを開催しています。
項目 | 概要 |
Level1 バリデーション・ワーカー | ・個人に対するバリデーションの実践ができる ・バリデーションに興味がある人へのサポートができる ・少人数に対しバリデーションの紹介ができる |
Level2 グループ・バリデーション・プラクティショナー | ・グループバリデーションが実践できる ・バリデーション・ワーカーやバリデーションに興味がある人へのサポートができる ・少人数に対しバリデーションの紹介ができる |
Level3 バリデーション・ティーチャー | ・バリデーションの講義ができる ・公認バリデーション協会と共同でLevel1、Level2の講義・授業ができる |
受講生募集はホームページで告知されるため、興味のある人はチェックしましょう。
参考:一般社団法人公認日本バリデーション協会「セミナーコースについて」
バリデーションを介護に取り入れた事例
バリデーションを介護に取り入れた事例をご紹介します。
2010年に関西福祉科学大学が行った個人へのバリデーションの実践研究においては、バリデーション・ワーカーが86才の女性に対しそれぞれ次のようなバリデーションテクニックを用いてセッションを4回行いました。
セッションの回数 | 用いたバリデーションテクニック |
1回目 | ・センタリング ・オープンクエスチョン ・リフレージング ・極端な表現をする ・アイコンタクト ・ミラーリング |
2回目 | ・センタリング ・アイコンタクト |
3回目 | ・センタリング ・タッチング ・レミニシング ・ミラーリング |
4回目 | ・センタリング ・アイコンタクト ・タッチング ・ミラーリング ・満たされていない人間的欲求と行動を結び付ける |
これらのセッションを行いワーカーが女性の認知症になる悲しみに寄り添った結果、女性が「愛されたい」という欲求を持っていることがわかり、バリデーション・ワーカーにタッチングをするなど行動に変化が見られ始めたのです。
参考:都村尚子 三田村知子 橋野建史「認知症高齢者ケアにおけるバリデーション技法に関する実践的研究」
宅配クック123は認知症ケアに関する最新の技法を学び続けます
宅配クック123では、「宅配クック123の想い」として3つのお節介をホームページに掲げていますが、認知症サポーター養成講座を受講するのもお節介の1つとして、積極的に続けています。
これは認知症ケアの研究が進むのが早く、スタッフも常に最新の技法を学んでいなければお客様に安心・安全を届けることはできないと考えているからです。
毎日のお弁当を届けながらの見守りが、認知症高齢者の方にとって暖かいものであるように。
そんな願いをかなえるため、宅配クック123は今日も認知症ケアについて学び続けます。
まとめ
介護におけるバリデーションとは認知症高齢者に共感して耳を傾け、評価することなく認知症高齢者にとっての現実を受け入れてコミュニケーションを行うことですが、理論、基本的態度、テクニックを身に着けていくことで少しずつコミュニケーションがうまく取れるようになるでしょう。
この記事も参考に、ぜひバリデーションを実践してみてください。