介護の現場ではよくバーンアウトの予防が重要だと言われるけれど、具体的にどのようなことを心がければよいのか、いまいちよくわからないと困っている人はいませんか?
この記事では介護の現場で働く人や利用者の家族が知っておきたい、バーンアウトの定義から予防する方法まで詳しく解説します。
バーンアウトとは?
バーンアウトとは英語のburnout syndromeからきた名前で、日本語では「燃え尽き症候群」と訳されています。
burnout syndromeは1974年、ドイツの精神心理学者ハーバート・フロイデンバーガーによって提唱されました。
それまで1つの物事に没頭していた人が、心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなることを指すのです。
バーンアウトはうつ病や精神障害のように病気の1つではないかと考えられていた時期もありましたが、現在ではWHO(世界保健機関)が策定する第11回国際疾病分類(ICD-11)改訂版において病気や障害ではなく、「健康状態に悪影響を与える要因」「職場上の現象」と位置付けられています。
参考:厚生労働省 e-ヘルスネット「バーンアウトシンドローム」
参考:WHO「バーンアウト」
バーンアウトの原因
人間がバーンアウトに陥ってしまう原因にはどのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
1、個人要因
個人要因とは性別、仕事の経験年数、性格などその人個人に起因するバーンアウトの原因を指します。
2019年に関西学院大学が発表した「介護職員のバーンアウト要因についての一考察:職場環境の管理体制に着目して」によると、介護職員がバーンアウトしやすい個人要因としにくい個人要因には次の表のようなものがあるとわかりました。
バーンアウトしやすい個人要因 | バーンアウトしにくい個人要因 | |
性格特性 | ・情緒不安定 | ・適当で細かいことは気にしない楽天的な性格 |
年齢 | ・低い | ・高い |
性別 | ・女性 | ・男性 |
配偶者 | ・いない | ・いる |
経験年数 | ・少ない | ・多い |
就職の動機 | ・介護への理想 | ・介護職員の社会的重要性や福祉理念 |
個人要因には就職の動機のように学校で対策可能なものもありますが、性別や年齢のように対策ができないこともあるため、介護に関わる人が要因から対策を考えるより、バーンアウトのリスクを理解するために要因を知っておくといった活用方法が望ましいでしょう。
参考:関西学院大学リポジトリ「介護職員のバーンアウト要因についての一考察:職場環境の管理体制に着目して」
2、環境要因
環境要因とは職場環境など、個人が置かれている環境に起因するバーンアウトの要因を指します。
2019年に関西学院大学が発表した「介護職員のバーンアウト要因についての一考察:職場環境の管理体制に着目して」によると、介護職員がバーンアウトを引き起こさないように管理できる環境要因には次の4つがあるとわかりました。
環境要因の種類 | 概要 | 改善策 |
作業内容 | ・作業量の多さと質的負担 | ・自律性や決定権を強化する |
管理体制 | ・施設における管理体制 | ・リーダーシップの高い管理職が現介護職員の意見を取り入れたり、指導力を発揮したりする |
役割関係 | ・役割のあいまいさ | ・仕事の目的や責任の及ぶ範囲を明確化する |
人間関係 | ・利用者や同じ介護職員との関係性 | ・職場の雰囲気を暖かくてなじみやすいものとし、利用者中心的介護を実践する |
環境要因は個人要因と異なり改善策が明確化しているため、優先順位を決めてリスクの高い要因を取り除くことでバーンアウトの予防につなげられるでしょう。
参考:関西学院大学リポジトリ「介護職員のバーンアウト要因についての一考察:職場環境の管理体制に着目して」
3、感情労働
感情労働(Emotional Labour)とは、常に自分自身の感情をコントロールし、相手に合わせた振る舞いや言葉を求められる労働のことで、体力を使って対価を得る「肉体労働」、頭脳を使って対価を得る「頭脳労働」と同じ労働形態の1つです。
アメリカの社会学者A.R.ホックシールド(Arlie R.Hochschild)によって提唱されました。
感情労働の主な特徴は次の通りです。
- 労働による達成感や充足感を得にくい
- 気が抜けず常に精神的なストレスやプレッシャーにさらされている
- 仕事における作業量が予測できないため計画的に物事を進めにくい
- 労働に対する適正な評価をしにくい
- 仕事とプライベートを分けにくい
これらのことから介護士やケアマネージャー、家族があまりにも献身的に、また一心不乱に介護という感情労働へと取り組むと、職務上の役割と個人的な人格を切り離して考えることができなくなり、バーンアウトへとつながる可能性が高くなると言えるでしょう。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌 2007年1月号 バーンアウト(燃えつき症候群)-ヒューマンサービス職のストレス 久保真人」
バーンアウトの症状
バーンアウトの具体的な症状にはどのようなものがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
1、情緒的消耗感
1996年にマスラッハ・C・ジャクソンによって発表された、質問紙法を用いてバーンアウト傾向を測定する Maslach Burnout Inventoryマニュアル(MBIマニュアル)によると、情緒的消耗感とは仕事を通じて情緒的に力を出しつくし、消耗してしまった状態と定義されています。
バーンアウトの主症状とも言われ、介護の現場においては利用者の気持ちを思いやって感情のやり取りを繰り返す中で私的な課題を寄り添って解決することを求められるため、援助に携わる人が疲弊し消耗してしまうといった状態です。
2、脱人格化
同じくMBIマニュアルによると、脱人格化とは相手の人格を無視した無常で非人間的な対応と定義されています。
介護の現場においては利用者を名前で呼ばなくなったり、専門用語を多く使用したりして距離を置こうとする行動が見られるようになります。
3、個人的達成感の低下
MBIマニュアルによるとヒューマンサービスの職務に関わる有能感、達成感が低下した状態と定義づけられています。
バーンアウトに至る人はそれまで介護において比較的高いレベルのサービスを利用者に提供し続けてきたため、そのサービスの質の低下は周囲の目から見ると明白でしょう。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌 2007年1月号 バーンアウト(燃えつき症候群)-ヒューマンサービス職のストレス 久保真人」
バーンアウトの治療と回復
1998年にベルニエが発表した重度のバーンアウトからの回復についての研究によると、回復までには次の6つの過程を経ることかわかりました。
回復過程の名称 | 概要 |
第一段階(問題を認める段階) | 心身の不調や意欲の減退が単なる疲労からきているのではなく心理的な要素が深く関わっていることを自覚する段階 |
第二段階(仕事から距離を取る段階) | 仕事から心理的な距離を取るのが難しいため休職して職場との間に物理的な 距離を取る段階 |
第三段階(健康を回復する段階) | 心身共にリラックスし趣味や新しい活動などを見出す段階 |
第四段階(価値観を問い直す段階) | 今までの生活を振り返り過去の行為を思い出し自分自身を再発見する段階 |
第五段階(働きの場を探す段階) | 外の世界との関わりを取り戻し新しい価値観に合った仕事を求める段階 |
第六段階(断ち切り、変化する段階) | それまでの自分のキャリアを断ち切り新しい環境で人生を再設計する段階 |
個人によってこの6つの段階を経て回復するまでの時間は異なりますが、介護の現場にとっては例え早い回復であったとしても大きな機会損失につながるため、予防を心がけることが大切だと言えるでしょう。
参考:独立行政法人労働政策研究・研修機構「日本労働研究雑誌 2007年1月号 バーンアウト(燃えつき症候群)-ヒューマンサービス職のストレス 久保真人」
バーンアウトを予防するための対策
2004年に東京家政学院大学より発表された「介護支援専門員におけるバーンアウト」でバーンアウトについてのアンケートに回答したケアマネージャー81名中7名がインタビューでの更に詳しいヒアリングに応じています。
ケアマネージャー7名中バーンアウト経験者は2名ですが、7名のケアマネージャーがバーンアウトの予防に有効だと感じる対策は次の6つでした。
対策の種類 | 具体的な施策 |
ソーシャルサポート | ・職場での良好な人間関係 ・関係者との連携 ・所属組織以外でのケアマネージャー同士で話せる場の確保 ・ケアマネージャー専用の電話相談 |
居宅介護支援事業者への指導 | ・民間法人の社会福祉分野への参入における基準の設置 ・事業責任者への研修 ・行政指導 ・ケアプランへの監査 |
社会資源の増加 | ・特別養護老人ホームの増加 ・ショートステイの増加 |
報酬の増加 | ・1ケース3万円が妥当 |
ネットワークの構築 | ・孤立しない体制やネット環境の充実 |
業務管理 | ・タイムマネジメント |
ケアマネージャーのみに有効な施策も含まれていますが、介護の現場において普遍的な関係者との連携や良好な人間関係などが挙げられているため、バーンアウト対策として参考になる結果だと言えるでしょう。
参考:東京家政学院大学紀要第44号「介護支援専門員におけるバーンアウト」
バーンアウトしない高齢者への食事支援とは?
家庭における食事支援の分野で、ケアマネージャーや家族がバーンアウトしないように予防するにはどうすればよいのでしょうか。
まずは「毎日食事を自宅で作らなければならない」という決まりを少し緩めて、地域の配食サービスの利用を検討してみることをおすすめします。
宅配クック123朝霞・和光店では、利用者を支援するために日々がんばっているケアマネージャーや家族の方のために、ホームページからすぐに資料請求や電話申込ができるようにしてあります。
また食事を作るのが疲れた時、週1日1食からでも申し込みができるためバーンアウト予防にはうってつけのサービスだと言えるでしょう。
「がんばりすぎない介護」をみんなで実践するためにも、ぜひ宅配クック123を上手に利用してみませんか。
まとめ
バーンアウトは燃え尽き症候群と訳され1つの物事に没頭していた人が心身の極度の疲労により燃え尽きたように意欲を失い、社会に適応できなくなることを指しますが、原因を把握し予防のための対策を施すことでリスクを減らすことができるとわかりました。
介護に関わる人はバーンアウトのリスクを理解し、さまざまな社会資源やネットワークを活用することで予防に心がけてみてください。