回想法が認知症の進行予防やうつ状態の改善に役立つことはわかっていても、具体的にどのように実践すればよいのかまではよく知らない人も多いでしょう。
この記事では回想法の効果から実践方法まで詳しくご紹介します。
回想法とは?
回想法とは自分の過去について話すことで精神を安定させ、認知機能の改善も期待できる心理療法です。
1960年代にアメリカの精神科医であるロバート・バトラーによって提唱されました。
現在の日本においては主に認知症の非薬物療法の1つとして位置づけられ、治療だけではなく予防方法としても広く活用されています。
回想法の効果
回想法の具体的な効果とは、どのようなものなのでしょうか。
5つご紹介します。
心を落ち着かせる
回想法で自分の人生におけるさまざまな出来事を思い出すことによって、心を落ち着かせることができます。
思い出にひたったり、それを共有したりすることで今まで感じていた孤独や喪失感などが少しずつ取り払われてやすらぎを得ることにつながるでしょう。
自己を再確認する
認知症の患者は今自分がどのような状況に置かれているのか、周囲と自分との関係がどのようなものなのかをわからなくなってしまいがちです。
このような状況は人間の心に不安や恐怖をもたらします。
回想法では自分の生きてきた道筋をたどり、その過程で家族や友人、職場の人たちなどどのような人たちに囲まれて過ごしてきたのかを思い出すことができるため、自分の生き方や他の人にとって自分がどんな存在なのかを再確認することができるのです。
昔と今と未来をつなぐ
認知症の患者は昔、今、未来といった時間の流れがわからなくなることがあります。
現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなどの基本的な状況把握のことを見当識と呼びますが、認知症ではこの見当識が損なわれる場合があるためです。
回想法では過去から今に向かう時間の流れを確認し、未来を想うことで見当識を取り戻すことができます。
自信と希望を取り戻す
認知症の患者はできないことが増えたり、物事に失敗したりすることが増えるため、自信を失いがちです。
また病気にかかっている患者は誰でも感じることですが、自分は病気でどうなってしまうのかという不安や苦しみを抱えてしまう場合も多いでしょう。
回想法では自分が人生の中で成功した体験や楽しかった思い出を振り返るため、自信や誇りを取り戻すことができます。
また不安な気持ちを和らげることで、明日への希望も見出しやすくなるでしょう。
コミュニケーションを深める
認知症の患者はできないことが増えると物事に対する意欲や周囲に対する関心が薄れるため、人との交流を避けるようになります。
しかし回想法は基本的にコミュニケーションによって行われるため、少しずつ他人と関わる意欲を持ってもらうことができるのです。
人と接することに楽しさや暖かさを感じることで、閉ざされていた心が少しずつ周囲に開かれていくのも回想法のもたらす大きな効果だと言えるでしょう。
回想法を行う際の事前準備
回想法を行う際には、次のような事前準備をしておくとスムーズでしょう。
- 回想法に参加を予定している人たちの属性と、触れられたくない話題をあらかじめ把握する
- 参加を予定している人たちの中で当日参加したくない人が出た場合は無理強いをしないようにする
- グループで回想法を行う場合参加者のプライバシーに関わる話が出るため、参加者同士で情報を共有してもよいかどうかは本人と家族の同意を得ておく
- 参加者が話しやすいテーマを決める
属性については、次の表にあるようなことをヒアリングしておくのをおすすめします。
属性の種類 | 概要 |
基本情報 | 氏名、生年月日、年齢、性別、既婚か未婚か、離婚歴やその理由、現住所、出身地など |
家族構成 | 兄弟姉妹(何人兄弟・何番目)、結婚後の家族構成、現在の家族構成、家庭内の役割など(過去と現在) |
人間関係 | 本人が頼りにしている人、主介護者、施設入居者は面会に来る人、生活費または入居費の出資者、友人関係、近所づきあいなど |
経歴 | 学歴(行けなかったが行きたかった学校)、職歴、育った家庭の仕事など |
心身の状況 | 病歴・最近の体調・認知症の有無と程度、視力・聴力・集中度、元来の性格、他者との関わり方など |
生活環境 | 生活パターン、最近の様子、年代に沿った生活歴、本人が好きな呼ばれ方、ペットを飼っているかどうかなど |
好き嫌い | 関心のあること、趣味、特技、好きなこと、嫌いなこと、口癖、好きな話題、こだわりのある話題など |
過去の出来事 | 本人が嬉しかったこと、ショックだったこと、人生の転機、今でも気になっていることなど |
事前準備をしっかりと行えば、参加者が抵抗なく話をする環境を整えることができるでしょう。
回想法を行う方法
回想法を行う方法は2種類あるため、それぞれの内容をご紹介します。
個人回想法
聞き手と話し手の2人で回想法を行う方法です。
話し手は高齢者本人、聞き手は家族や介護士、看護師、ソーシャルワーカーなどが担当することが多いでしょう。
高齢者の個性を尊重しながら話を聴くことができるため、精度の高い回想ができて話がまとまりやすいのがメリットです。
聞き手は話し手の話を傾聴し、楽しいエピソードを引き出すよう配慮しながら質問することが大切です。
グループ回想法
10名前後のグループで回想法を行う方法です。
参加者の合意形成・相互理解を促すためのファシリテーターと、その補助をする人が2人で聞き手になると進行がしやすくなります。
具体的には介護施設などで行われ、介護士や看護師がファシリテーターを務めることが多いでしょう。
グループ回想法は他の人が話す内容が刺激となり、活発なコミュニケーションを促すことができるのがメリットです。
また複数人で会話をすることで話が盛り上がりやすいため、ポジティブな雰囲気が形成されるでしょう。
ただし自分ばかり話してしまう人、話すタイミングをつかめない人、人の話を奪ってしまう人も参加者に含まれる可能性があるため、ファシリテーターはある程度経験を積んだ人に行ってもらうのが望ましいでしょう。
回想法を行う際の注意点
回想法はどのような点に気を付けて行うのが望ましいのでしょうか。
5つご紹介します。
無理強いをしない
何かを思い出したり、人に説明したりするというのは意外と脳への負荷が大きいものです。
認知症の人にとってはこれが良い刺激になりますが、やりすぎるとストレスや疲れの原因にもなってしまいます。
話している様子を良く観察し、疲れが話し方や表情に出てきたら素早く切り上げることが大切です。
プライバシーを守る
回想法への参加者が話した内容には本人のプライバシーに関わる内容が多く含まれるため、他言してはいけません。
ネガティブな人間関係、死に関わること、本人の心の傷をえぐるような話題は触れられたくない人が多く、もし何かのきっかけで話が出たとしても、不用意に噂話などで広まってしまわないよう最大限の配慮をすることが重要です。
回想法を行う際は、語り手の尊厳と個人情報を守るため、秘密保持を厳守しましょう。
タブーに触れない
人間には語りたくない過去もあるため、回想法においては本人の語らないという選択を尊重することも重要です。
事前に触れられたくない話題を把握し、その話題に流れそうになったら話題をそらすようにしましょう。
否定をしない
回想法はその人にとっての真実が大切なため、参加者が事実と異なることを話したとしても否定してはいけません。
健康な人でも記憶の改ざんはよくあることなので、聞き手は傾聴に徹し、話の腰を折らないことが大切です。
話を否定したり、さえぎられたりすることで認知症の患者は混乱したり、取り乱したりしてしまう場合があるため、聞き手は受容的な態度を崩さないよう注意しましょう。
心地よく終える
人間が何かを見た時に最後の印象が記憶に残りやすく、それが後の評価や判断に影響を及ぼすことを心理学の用語で親近効果と言います。
このことを踏まえて、回想法では最後にポジティブな話題や明るい話題で締めくくるようにしましょう。
例えば参加者が人生の中で辛く悲しい経験を話したところで回想法を終えると、不穏な空気が残り、それを日常生活に引きずってしまうことになります。
このようなことを避けるためにも、回想法を心地よく終えられるように配慮することが大切です。
宅配クック123は高齢者の昔話や自慢話をお聴きしたいと考えています
宅配クック123では、高齢者の方の昔話や自慢話をぜひお聴きしたいと考えています。
宅配クック123ではその気持ちをお伝えするため、2015年6月に楽しい縁日の様子が描かれたうちわをプレゼントしました。
このうちわに描かれた絵はミッケルアートと呼ばれ、高齢者の方々の思い出を聴くコミュニケーションツールとして2010年に生まれました。
東京医科歯科大学大学院などと共同研究を行い、認知症の周辺症状を緩和する効果への有効性が確認されたため、日本認知症ケア学会と日本認知症予防学会から学会賞が贈られているのです。
ミッケルアートを用いることで、高齢者の方は懐かしい思い出ややりたいことを見つけることができます。
これまでも、これからも高齢者の方と向き合っていくことを大切にしたい。
宅配クック123はそんな気持ちで今日もお弁当をお届けしています。
参考:宅配クック123公式ホームページ「宅配クック123の想い」
参考:ミッケルアート公式ホームページ
まとめ
回想法とは自分の過去について話すことで精神を安定させ、認知機能の改善も期待できる心理療法で、自信と希望を取り戻したり、コミュニケーションを深めたりと認知症患者の方にとってさまざまな効果があるとわかりました。
ぜひ回想法の良さを知り、介護の現場に取り入れてみてください。