ケアワーカーの方々の中には日々高齢者と触れ合う中で、もっと高齢者についてさまざまな側面から知り、理解を深めたいと感じている人も少なくないのではないでしょうか。
この記事では高齢者について知る上で理解しておきたい老年期の発達課題について詳しく解説します。
高齢者の発達課題とは?
発達心理学では人間は一生を通じて心身の変化と成長を続けると捉えられているため、老年期を過ごしている高齢者にも発達課題があると考えられています。
発達心理学における高齢者の発達課題について知識を深めることで、高齢者の心を客観的に見つめ、よりその人を深く理解することにつながるでしょう。
発達理論における高齢者の発達課題について
発達心理学者は、それぞれの提唱した発達理論において、高齢者の発達課題はどのようなことだと位置づけたのでしょうか。
発達心理学者5人が位置づけた高齢者の発達課題について説明します。
ロバート・J・ハヴィガーストの発達理論による高齢者の発達課題
アメリカの教育学者であるロバート・J・ハヴィガーストが提唱した発達理論では、人間の発達段階は次の6つにわかれているとされました。
- 乳幼児期
- 児童期
- 青年期
- 壮年期
- 中年期
- 老年期
ロバート・J・ハヴィガーストが提唱した発達理論においては6段階目の老年期が高齢者の発達課題ですが、その概要は次の通りです。
- 肉体的な強さと健康の衰退への適応
- 日常生活の再構成
- 祖父母の役割の獲得
- 退職と収入の減少への適応
- 同年代の人と明るい親密な関係を作る
- 肉体的に満足な生活を送るための準備
- 配偶者の死への適応
- やがて訪れる死への準備と受容
職業以外での自分の役割を見出して心理的安定を図るとともに、収入減少に応じた対策を取ることで経済的安定を図り、最終的に死の受容へと向かうのがハヴィガーストの発達理論における高齢者の発達課題の特徴的な部分だと言えるでしょう。
エリク・H・エリクソンの発達理論による高齢者の発達課題
アメリカの発達心理学者であるエリク・H・エリクソンが提唱した発達理論では、人間の生涯は次の8つの段階にわかれ、段階ごとの課題を達成することで健康的に生きることができるとされました。
- 乳児期(生後~17か月)
- 幼児前期(18か月~3才)
- 幼児後期(3才~5才)
- 学童期(5才~13才)
- 青年期・思春期(13才~20才)
- 成人期(20才~40才)
- 壮年期(40才~65才)
- 老年期(65才~)
エリク・H・エリクソンが提唱した発達理論では8段階目の老年期が高齢者の年齢にあたりますが、老年期における発達課題は「自己統合」で、大きな歴史の流れの中で自分の人生の意味を見出すことを指しているのです。
この課題をクリアすることで得られるのは賢さと英知で、もしクリアできなければ自分の存在意義を見出すことができず、絶望におちいり死を受容できなくなります。
ペックの発達理論による高齢者の発達課題
ペックが提唱した発達理論では、エリクソンが提唱した8段階目の老年期では3つの心理社会的葛藤を経験するとしました。
3つの心理社会的葛藤とその概要を表にまとめてみました。
心理社会的葛藤 | 概要 |
自我の分化対仕事―役割への没頭 | 職業や親としての役割を含めた引退の危機で、これまで積み上げてきた成果を越える広い役割に満足し、別の面にも目を向け自分の価値観を創造していけるかが問題となる |
身体の超越対身体への没頭 | 身体的健康の危機で、体調の悪化だけに捉われることなく、それを超えるような対人関係や趣昧、創造的な精神活動に満足することが、生きがいにつながり幸福感を生む |
自我の没頭対自我の超越 | 死の危機で長くはない命であるため、 自分の生死だけに注意が向くのか、これまで自分が生み出した子供や友情、文化 を通して自分の意識を超越し、これからも続くという恒久的な意味を見出すかが重要となる |
この3つの葛藤から、ペックが高齢者の発達課題を仕事や親以外の役割を見出すこと、体調を越えた所に楽しみを見出すこと、自分にとらわれることなく生命が受け継がれていくのを受け入れることだと考えていたのがわかるでしょう。
ダニエル・J・レビンソンの発達理論による高齢者の発達課題
アメリカの心理学者であるダニエル・J・レビンソンによる発達理論では、ユングのライフサイクル論を基に人生の発達段階・ライフサイクルを四季に例え、4つの発達期(安定期)と3つの過渡期=トランジション(転機)があるとしました。
各発達期の間には各5年程度の過渡期があるとされるため、人生においては発達期と過渡期が交互に訪れることになります。
安定期の発達課題は重要な選択をしてそれを中心に生活構造を築き、その中で自分の目標や価値観を追及することです。
また過渡期の発達課題はそれまでの生活構造を見直し、自分や外界を変える様々な可能性を模索し、次の安定期に備えて新しい生活構造の基盤となる重要な選択ができる状態にすることです。
4つの発達期と3つの過渡期の概要を表にまとめてみました。
発達段階 | 概要 |
児童と青年期(0才~17才) | 両親や社会に保護されながら生きる時期 |
成人への過渡期(17才~22才) | アパシー(無力感や無価値)と離人感(自分が自分ではないような感覚)が課題となる時期 |
成人前期(22才~40才) | 両親や社会に保護された環境から自分で道を切り開く必要があるという自覚が芽生える時期 |
人生半ばの過渡期(40才~45才) | 40年間で確立した自己や価値観が崩壊する恐怖を感じる時期 |
中年期(45才~60才) | 自分らしさの模索や葛藤を通じて、自分らしく生きることを決断する時期 |
老年への過渡期(60才~65才) | 役割感の喪失と孤立化が課題となる時期 |
老年期(65才以上) | 死を受容しながら新たな生への希望を獲得する時期 |
ダニエル・J・レビンソンは安定期の間に訪れる過渡期こそが人間を成長させ、発達させると考えていたのがわかります。
ポール・B・バルテスの発達理論による高齢者の発達課題
ドイツの心理学者であるポール・B・バルテスによる発達理論では、人間の発達を段階別にわけて分析するのではなく、生涯に渡って発達し続けるという考えに基づいて分析を行い、その学問を「生涯発達心理学」と位置づけました。
ポール・B・バルテスが生涯発達心理学を提唱するまでは発達心理学は子供~青年までを主な研究対象としていましたが、これが老年期にまでに拡大されたのが特徴的だと言えるでしょう。
生涯発達心理学では加齢による変化を研究の対象としていますが、加齢による変化には「なんらかの能力の獲得(成長)」と、「なんらかの能力の喪失(衰退)」の2つがあります。
これを踏まえて生涯発達心理学では発達を次の3つの観点から捉えています。
・人間の発達は生涯にわたる過程であること
・発達は生涯を通じて常に獲得(成長)と喪失(衰退)が関連しあうこと
・人間の発達には歴史や文化が影響を及ぼすこと
そして生涯発達心理学における老年期の特徴として「非標準的要因」が発達に強く影響を及ぼすことと、喪失が多くなるものの獲得の部分があることの2つが挙げられます。
前者は老年期には個人の経験が発達に大きく影響するため、標準的、定型的な発達が想定しにくいことを意味するのです。
後者は高齢者の発達課題を喪失への適応に重きを置いて分析した今までの発達理論と異なり、獲得にも目を向けて分析を行うということを指します。
老年期になっても人間が自己実現を目指す存在であると位置づけたのが、ポール・B・バルテスの提唱する生涯発達心理学の大きな特徴だと言えるでしょう。
高齢者の発達課題を踏まえたケアとは?
発達心理学において少しずつ研究が進められてきた高齢者の発達課題ですが、介護の現場ではどのようにこの考えを活用するのが望ましいのでしょうか。
老年期は人間にとってそれぞれの人生を完成させる時期とも言えるため、そのことを踏まえたケアを行うのが大前提だと言えるでしょう。
具体的には高齢者本人の意志を最大限尊重し、喪失の苦しみを受け入れ、新たな生きがいを見出してそれによる成長の喜びを感じてもらえるようにサポートをするということです。
また高齢者の最後の課題とも言える死の受容については、高齢者本人にとってふさわしい死が迎えられるように支えることが重要だと言えるでしょう。
近年高齢者の心理社会的発達に効果的な手法として、ライフストーリー・インタビューなどが新たに提唱されています。
ケアの中でライフストーリーの語り手と聴き手としての信頼関係を構築し、人生の経験的な真実を語ってもらうことができれば、高齢者の人生を完成させるための援助につながるのではないでしょうか。
宅配クック123では高齢者の方の豊かな人生を食事面からサポートします
宅配クック123では高齢者の心理社会的な発達を、食事の面からサポートしたいと思っています。
そのため、お客様にとってNO.1の食事は家族が心を込めて作った食事ですが、NO.2の食事を目指そうと考えているのです。
手作りの食事にはかなわなくても、ごはんとおかずを別の容器にする、和食を中心にするなど少しでもご家庭の味に近づける工夫を凝らし、高齢者の方が家族の味を喪失したと感じないよう、宅配クック123の味を新しい楽しみの獲得と捉えていただけるよう、日々努力を続けています。
今日も宅配クック123では、高齢者の方が食べることで豊かな気持ちになっていただけるのを目指して、お弁当をお届けしています。
まとめ
発達心理学において、人間は一生を通じて心身の変化と成長を続けると捉えられているため、老年期を過ごしている高齢者にも発達課題があると考えられており、発達心理学者がそれぞれに提唱した発達理論に応じてさまざまな種類の課題があることがわかりました。
介護の現場においても高齢者の方が成長の喜びを感じていただけるよう、ぜひサポートの内容を工夫してみてください。