高齢者の方であっても障害を受容するのはなかなか難しいことだとわかっているので、適切な支援をしたいけれど、どのようにお声がけをするのが望ましいかわかりにくいと悩んでいる人はいませんか?
この記事では障害を受容するプロセスから段階別に適切な心理的アプローチまで詳しく解説します。
障害を受容するとは?
障害を受容するプロセスについて知る前に、障害を受容するとはそもそもどのようなことなのか考えてみましょう。
障害を受容するとは、心身に障害のある状態やそれによって引き起こされる生活上の困難や変化を受け止めてそれに適応し、劣等感やわだかまりを持つことなく前向きに社会生活を営めるようになることを指します。
精神科医であるグレイソンは、1951年に障害の受容には次の3つの要素があると指摘しました。
要素 | 概要 |
身体的受容 | 自分の心身の状態や能力、障害を負った原因、予後について可能な限り理解している |
心理的受容 | 自分の障害について日常生活に支障をきたすほど思い悩むことはなく冷静に受け止めている |
社会的受容 | 自分の職業・家族・住宅などの状態について心身の状態に適した考えを持ち無理のない範囲で何らかの役割を持つことができる |
グレイソンはこれにより障害の受容は当事者の課題であるということを明確に示したのです。
しかし障害における困難が社会的な側面から来るものであることを考えると、障害の受容は必ずしも個人で解決する課題ではなく、社会的な課題として考える必要もあると言えるでしょう。
参考:中田洋二郎「我が国の『障害受容』という概念を巡って」
障害を受容するプロセスについて
人間が障害を受容するためにはいくつかの段階が必要であるとする考え方をステージ理論と呼びますが、そのステージ理論に基づいてリハビリテーション医学会の上田敏会長が整理した5段階のモデルをご紹介します。
1,ショック期
受傷や発病直後のため自分自身に何が起こったのか理解できない時期のことです。
まだ急性期で集中治療などが行われている場合が多いため、肉体的な苦痛はありますが心理的不安はあまりなく、感情的に鈍麻した無関心な状態とも言えるでしょう。
健康な時と同じ身体像を持ち、障害を持っているという自覚がなく、時間が経過すれば身体が元通りに回復すると信じていることもあります。
この時期はあまり長く続くことはなく、少しずつ現実を認識できるようになります。
2,否認期
自分の障害から目を背けて認めようとしない時期のことです。
障害を持っていると自覚しますがそれを受け入れることはできないため、健常者に対して嫉妬や羨望の感情を抱いたり、介護者に対して暴言や八つ当たりなどが見られたりします。
また同じ障害を持つ人に対して差別的な言動を取ったり、交流を拒んだりといった行動も見受けられるでしょう。
この時期が長く続くとリハビリに積極的でなくなるなどの影響が出てくるため注意が必要です。
3,混乱期
圧倒的な現実にどのように対処すればよいのかがわからない時期のことです。
反応は大きく内向的に表れる場合と外向的に表れる場合の2つに分類できます。
内向的に表れた場合は無気力・悲しみ・抑うつなどに陥り希望を失うため、自殺につながる可能性もあるでしょう。
また外向的に表れた場合は怒り・他人への責任転嫁などが見られ他者に対して攻撃的になるのです。
いずれにしろこの時期はまだ自分の今後の人生について考えることはできません。
4,解決への努力期
少しずつ自分の障害を受け入れ現実的な対応も行い始めますが、そのような行動に自信がなく感情が揺れ動いている時期のことです。
否認期とは異なり、健常者に対して劣等感を持ったり、同じ障害を持つ人に対して親近感を持ったりします。
ステージ理論の段階においては解決への努力期は4段階目ですが、全ての人がショック期からの順番を経て障害を受容するのではなく、最初からこの段階に近い人も見られるのが特徴的と言えるでしょう。
病気やケガに負けず、前向きに生きようと努力し始める時期です。
5,障害の受容期
障害を受容し自分の個性の1つとしてとらえ、障害があることで自分の価値が変わることはないと理解できる時期のことです。
障害がある状態で生きていく方法を自分なりに見出した状態のため、人間関係においても健常者と障害者を区別することなく受け入れることができます。
社会や家庭の中でも新たな役割を持ち、その活動を続けることで生きがいを見出して前向きに生活を送ることができるようになる時期です。
障害を受容するプロセス別の支援方法
障害を受容する5つのステージにおいては、どのような支援を行うのが望ましいのでしょうか。
それぞれの段階別にご紹介します。
1,ショック期
受傷や発病直後である急性期においては、まずは生命の維持を第一目的としたケアが必要ですが、全身状態が落ち着いたら障害の残ることやその後の可能性について医師から正確な情報を伝えることが重要です。
告知を受けることで本人が大きな衝撃を受けるであろうことは予想できますが、ここで正しい現実を伝えないことでその後の段階に進めなくなったり、後からさらに大きな衝撃を与えてしまったりすることにつながります。
本人は障害やその後の経過について理解できていないことがほとんどのためまずは正確な情報を伝え、家族や医療、介護、理学療法士や作業療法士の手による支援が受けられることを知ってもらいましょう。
2,否認期
否認には顕在的なものと潜在的なものが見られますが、ケアを行う場合は潜在的なものを意識して行うのが望ましいと言えます。
注意を要する潜在的な否認は次の3つです。
・障害部位の機能回復訓練には積極的だが残存機能開発のための訓練には消極的
・迷信にすがる
・同じ障害を持つ人との交流を避ける
これらの否認は弱い自我が圧倒的な現実に対して自己防衛するために行われる反応のため、自我がある程度鍛えられて強くなるまでは無理に現実と向き合わせるのは有益ではありません。
支持的・保護的に接しながら、少しずつでも機能回復訓練などを続け、自立能力を高めるように支援するのが望ましいと言えるでしょう。
3,混乱期
混乱期では自分の人間としての価値が失われたと感じやすく、実際の身体的・社会的な制約より制約を大きく感じやすいため、できないことよりできることに目を向けて支援することが大切です。
今できることを寄り添って探すのは良いことですが、障害を持つ前の本人の仕事や趣味を参考にしすぎると、かえってこの身体ではできるわけがないという思いを抱かせてしまうことにつながるため注意しましょう。
4,解決への努力期
解決への努力期においては感情が揺れ動いている状態のため、特に周囲からのサポートが重要な時期とされます。
受容や否定、不安や落胆などさまざまな感情が行き来する中目標を共有して可視化することは、本人にとって大きな心の支えとなるでしょう。
また立てた目標に向かってそれを達成するための計画や方法を寄り添って一緒に考えるのも良いことです。
目標を達成して得た成果を認めてもらった際に生まれる達成感や自信は、次のステージへと進むきっかけにもなります。
5,障害の受容期
障害の受容期では人間関係において健常者と障害者を区別することなく受け入れることができる状態のため、家族や支援者だけで課題を解決できない場合は同じ障害を持つ人同士が自由に語り合うピアカウンセリングなどを行うのも良いでしょう。
また支援者の立場として、障害を受容できた人を尊敬することはあっても、受容に至らなかったからといって責めたり、卑下したりするような振る舞いは避けましょう。
「できること」を大切にするために配食サービスを利用してみませんか
障害によってうまく料理ができなくなってしまい、リハビリをしても毎食手作りするのは難しいという高齢者の方は意外と多いものです。
そのような時、できないことに目を向けてしまうと無理をして時間をかけても食事を自分で作り続ける方向性で支援を行ってしまいがちですが、果たしてその支援は本当にその方のQOLを向上させることにつながるでしょうか。
その高齢者の方が「できること」の中でも「好きでやりたいこと」は何かを知り、それに時間を割けるように支援をするのが本人が本当の意味で障害を受容し、前向きに生きていくためのサポートになります。
例えば本人が短歌を詠むことが好きなら、短歌を考える時間を作るために時間のかかる食事作りは自分で行わず、配食サービスを利用するといったケアの方法も考えられるということです。
短歌を詠むという創作活動に熱心に取り組んだり、それがきっかけで同じ趣味を持つ人との交流が生まれたりすることは本人が生きがいを感じるきっかけになり、地域の中で楽しく生きていくことにつながるでしょう。
高齢者の方が地域で自分の「できること」を大切にした生活を送るために、宅配クック123は配食サービスでお役に立ちたいと考えています。
ぜひ一度宅配クック123にお声がけください。
まとめ
障害の受容には身体的受容、心理的受容、社会的受容の3つの要素があり、心身に障害のある状態やそれによって引き起こされる生活上の困難や変化を受け止めてそれに適応し、劣等感やわだかまりを持つことなく前向きに社会生活を営めるようになることだとわかりました。
年齢に関係なく障害を受容するのはとても困難なことであるため、受容するまでの段階を繰り返し行き来してなかなか前に進まないこともあるでしょう。
しかし本人のペースに合わせてあせることなく寄り添ったケアを続けていくことで、少しずつ気持ちが変化していくというのはよくあることです。
この記事も参考にして、ぜひ障害を受容し前向きに生きることができるようになるためのサポートを続けていってください。