介護の現場では高齢者の方への対応や課題の解決が困難な状況によく陥りますが、そのような時に身に着けておきたいのがレジリエンスです。

この記事ではレジリエンスとは何かからレジリエンスを高める方法まで詳しく解説します。

レジリエンスとは?

レジリエンスとは「回復力」「弾力」「しなやかさ」などの意味を持つ英単語の「resilience」のことで、心理学の分野においては困難があり危機的な状況に差し掛かっても精神的に回復し、成長することを指すのです。

レジリエンスの対義語は「Vulnerability」で日本語では脆弱性と訳されます。

レジリエンスには混同されがちな言葉が3つあるので、それぞれの意味をご紹介します。

レジリエンスとメンタルヘルスの違い

メンタルヘルスとは心の健康状態を意味する言葉です。

レジリエンスが起きた困難に対する回復力を指すのに対し、メンタルヘルスは現在の心の状態を指すのが大きな違いだと言えるでしょう。

レジリエンスとハーディネスの違い

ハーディネスとは大きなストレスを受けても健康を損ねにくい人たちに共通する性格特性で、次の3つの要素から成り立っています。

ハーディネスの要素概要
コミットメント(commitment)・自分の生活や仕事、人間関係に深く関与し逃げずに対応すること
コントロール(control)・自分自身に起こった出来事に対し自力で制御しようとすること
チャレンジ(challenge)・生活における変化やハプニングを脅威ではなく成長の機会ととらえること

レジリエンスがストレスを受けた後に回復する力を指すのに対し、ハーディネスはそもそもストレスを防御し受けにくくする力を指すのです。

レジリエンスとストレス耐性の違い

ストレス耐性とはストレスに対する抵抗力のことで、次の6つの要素から成り立っています。

ストレス耐性を決める要素概要
感知能力・ストレスに気づく能力
回避能力・ストレスを回避する能力
処理能力・ストレスの原因(ストレッサー)をなくしたり弱めたりする能力
転換能力・ストレスを受けた意味を前向きにとらえ直すことができる能力
経験・これまでストレスを受けた際にどの程度対応したか
容量・ストレスを受け止める容量

レジリエンスがストレスを受けた後に回復する力を指すのに対し、ストレス耐性はストレスにどれだけ耐えられるかを示しているのです。

レジリエンスが介護の現場で注目される背景とは?

レジリエンスが介護の現場で注目されるようになった背景には、どのようなことがあるのでしょうか。

2つご紹介します。

職場のメンタルヘルス対策が重要視されるようになったため

2015年2月から労働者がメンタルヘルスに不調をきたすのを未然に防止することを目的としてストレスチェック制度が開始されたように、職場におけるメンタルヘルス対策が重要視されるようになってきました。

2021年に公益財団法人介護労働安定センターが19,925人の介護労働者を対象に行った令和3年度介護労働実態調査によると、労働条件・仕事の悩みで「精神的にきつい」と回答した人が24.7%でした。

令和2年度の25.6%と比較すると少し減ってはいるものの、介護の現場でメンタルヘルスを健康な状態に保つためには、レジリエンスや高いストレス耐性が求められるという現状がうかがえます。

参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査結果について」
参考:厚生労働省「ストレスチェック等の職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策等」

新型コロナウイルスの拡大

新型コロナウイルス感染症は新しい生活様式であるニューノーマルや、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の四つの頭文字を取った予測困難な時代を示すVUCAを引き起こしました。

介護の現場においてもそれは例外ではなく、対面でのレクリエーションやボランティアの受け入れが制限され、新型コロナウイルスに感染した施設の職員が、陽性の利用者を介護する陽陽介護といった新たな課題も発生することとなったのです。

高齢者のQOLを維持するためには仕事のやり方や方向性を大きく見直すことが重要ですが、このような状況において求められるのがレジリエンスが高い職員だと言えるでしょう。

陽陽介護についても詳しく知りたい人は、次の記事もごらんください。

介護の現場でレジリエンスを高めるメリットとは?

介護の現場でレジリエンスを高めると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

離職率を下げられる

令和3年度介護労働実態調査によると2021年度の訪問介護員、介護職員における離職率は14.3%で、2007年に21.6%でピークとなって以来低下傾向が続いています。

レジリエンスを高めることで介護の現場において精神的にきついことがあっても回復が見込めるため、長期的には離職率の更なる低下につながるでしょう。

参考:公益財団法人介護労働安定センター「令和3年度介護労働実態調査結果について」

ストレスを成長につなげられる

2019年にスタンフォード大学の心理学者であるケリー・マクゴニガル氏が「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」で発表した内容によると、ストレスを受け入れることが正しいストレスマネジメントであることがわかりました。

具体的には、「ストレスは良い効果がある」という動画を見た被験者の方が、「ストレスは健康に悪い」という動画を見た被験者よりもストレス反応の成長指数を示すDHEAの分泌量が高かったそうです。

このことから介護の現場においてもストレスを全て避けるのではなく、適切に受け入れることでレジリエンスが身に着き、成長につながることがわかるでしょう。

参考:大和書房「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」

課題解決力が高くなる

レジリエンスを高めるということは心の柔軟性を高めることにもつながるので、介護の現場で何か課題が発生してもそれに柔軟に対応し、解決に導くことができるようになるのです。

そのため職員だけではなく経営層も含めてレジリエンスの高い介護の現場においては、課題を放置し悪化させるといったことが少なくなります。

レジリエンスを高める方法

介護の現場において働く人がレジリエンスを高めるには、どのような方法があるのでしょうか。

5つご紹介します。

レジリエンスを築く10の方法

2011年、アメリカ心理学会ではレジリエンスを築くには次の10個の方法があると提唱しました。

  • 家族や周囲の人と良い関係を築く
  • 危機的な状態に陥っても克服できない課題と捉えない
  • 変化は生活上の一部分として受け入れる
  • 現実的な目標を立てそれに向かって進む
  • 不利な状況でも決断や行動をする
  • 自己発見のための機会を探す
  • 自分に対して肯定的な見方をする
  • 物事の捉え方について展望を持つ
  • 物事に対して希望的観測を持つ
  • 自分自身を大切にする

どれもレジリエンスを育むために必要な心のあり方を示していますが、精神的な健全さを維持することがレジリエンスを築くことにもつながっていると言えるでしょう。

参考:アメリカ心理学会「10代の若者のためのレジリエンス:厳しい時代から跳ね返るスキルを身に着けるための10のヒント」

感情をコントロールする

レジリエンスを高めるためには感情のコントロールをすることが重要です。

感情をコントロールするためには、次のような心理学の理論が役に立ちます。

理論の種類概要
ABCDE理論A(Actvating event=状況や出来事)、B(Belief=考え方、受け取り方、物の見方)、C(Consequence=感情や感情によって誘発される行動)D(Dispute=非合理的なBに対する反論)
E(Effect=Dによる効果)に物事をあてはめ、Bを変えることでCの感情や行動を変えていくという理論
アンガーマネジメント怒りの感情と上手につきあうための知識や方法
認知行動療法考え方の癖である認知のゆがみを把握し改善する

感情のコントロールをすることで、気持ちを切り替え仕事における成長のチャンスをつかめるでしょう。

自尊感情を高める

自尊感情とは英語の「self-esteam」の訳語で自分が自分のことを尊重する感情を指します。

例えば、介護の現場では自尊感情が低いほど失敗したり叱られたりした際に落ち込み自分を立ち直らせるのが困難となりますが、自尊感情が高ければ行動は反省しながらもレジリエンスにつなげ、次に進むことができます。

自己効力感を高める

自己効力感とは英語の「Self-efficacy」の訳語で失敗を恐れて諦めることなく、自分ならきっとできると信じる力のことを指します。

例えば介護の現場では自己効力感の高い人ほど困難な課題に挑戦し、それを解決してレジリエンスを身に着け、自分の成長につなげることができるでしょう。

心理的安全性の高い職場作りに心がける

心理的安全性とは英語の「psychological safety」の訳語で、チームの中で他のメンバーが自分の発言を拒絶したり罰したりしないという確信を持てる状態のことを指します。

例えば介護の現場においては職員全員が心理的安全性の高い職場作りを心がけることで、自然にレジリエンスがチーム全体へと浸透し課題の早期発見と解決につながるでしょう。

宅配クック123ではしなやかな気持ちで高齢者の方の健康をサポートします

高齢化が進むにつれ、宅配クック123にも認知症のお客様が増加してきています。

宅配クック123では認知症サポーター講座を積極的に受講し、日々のコミュニケーションやお金のやりとりなどの際にも「みほこさん」(認める、褒める、肯定する、賛同する)を合言葉にお弁当のお届けを進めていますが、対応の難しい事例も含まれているのが現状です。

このような場合、宅配クック123ではサポート自体をあきらめたり、スタッフが悩んだまま抱え込んだりといったことはせず、必ずお客様のご家族、ケアマネージャー様へとご相談を行い、解決方法を模索するようにしています。

宅配クック123は、これからも地域で認知症の高齢者の方が健康で楽しい食生活を送れるよう、サポートを続けていきます。

宅配クック123資料請求ページ

まとめ

レジリエンスとは心理学の分野においては困難があり危機的な状況に差し掛かっても精神的に回復し、成長することを指しますが、介護の現場においては課題解決力を高めストレスを成長につなげられるのが大きなメリットだと言えるでしょう。

この記事も参考にレジリエンスに対する理解をさらに深め、現場で活かしてみてください。