介護の現場で仕事をする人の中にはもっと良いケアをするためのアイデアを思いついているのに、なかなかそれを実行できないと悩んでいる人も多いのではないでしょうか。

この記事では、現状を好転させられるとわかっていても踏み込めない場合に知っておきたい現状維持バイアスについて詳しく解説します。

現状維持バイアスとは?

現状維持バイアスとは感情的な要因で認知や意志決定がゆがむ感情バイアスの1つで、変化することを不安に感じ、現状維持を望む心理傾向を指します。

1988年にアメリカの心理学・行動経済学者であるダニエル・カーネマン氏による実験が行われたのをきっかけに、アメリカの経済学者であるリチャード・ゼックハウザー氏とポール・アンソニー・サミュエルソン氏による「Status quo bias in decision making」という論文で提唱されました。

人間は不確実な状況のもとで意思決定を行わなければならない場合、損失を回避しようとする傾向があるということが行動経済学におけるプロスペクト理論で証明されています。

現状維持バイアスは、プロスペクト理論を用いると人間が変化を安定の損失と捉えてしまうため、現状維持を望むと説明することができるのです。

介護の現場で起こりやすい現状維持バイアスとは?

介護の現場で起こりやすい現状維持バイアスにはどのようなことがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

現行の介護サービスを改善しようとしない

現状維持バイアスはケアを行う人、ケアを受ける人両方に起こるため、ケアを行う人が現行の介護サービスよりもっと相手に合ったサービスを提案することが可能だったり、ケアを受ける人が今のサービスに対して不満があったりしても改善されないことが多く見受けられます。

ケアをする人、される人両方がこの状態を変えようと何らかの行動を起こさない場合、双方が不満を抱えたままケアを続けてしまうこととなり、人間関係がこじれてしまうことにもつながりかねません。

ずっと現在の体調が維持されると思い込む

介護の現場では病院のように急性期の患者に対してのケアを行うわけではないため、体調が安定している人に対しての様子観察や対応は優先順位が下がりがちです。

しかし、現状の体調やメンタルの状態がずっと維持されるということはないということを念頭におき、安定している人へもリハビリやレクリエーションなどでQOL(生活の質)が向上するよう常に意識することが重要だと言えるでしょう。

施設を「終の棲家」だと思い込む

在宅介護から施設介護へとサービスを切り替えると、ケアをする側も受ける側も施設を「終の棲家」と考えてしまいがちですが、体調が急変して手厚い医療ケアが必要となったり、周囲の人とトラブルを起こして居心地が良くなくなってしまったりという可能性もあります。

あくまでも介護サービスは現状の状態に合わせたサービスに過ぎないため、本人の状態に応じてサービスの選び方は変える必要があるということを、ケアを受ける人、ケアをする人、家族など関わる人全員が認識しておく必要があるでしょう。

介護の現場における現状維持バイアスの外し方

介護の現場において現状維持バイアスがかかっている場合、どのような方法で外すのが望ましいのでしょうか。

5つご紹介します。

現状維持バイアスについて知る

現状維持バイアスを外すためには、まずは現状維持バイアスという心理効果について詳しく知ることから始めてみましょう。

現状を維持するのは退化することでもあると理解できれば現状維持には歯止めがかかり、介護の現場におけるより良い状態を目指して進むことができるようになります。

コンフォートゾーン・ラーニングゾーンとは

現状維持バイアスについて理解が深まると、自分が介護の現場においてコンフォートゾーンとラーニングゾーンのどちらにいるのかを把握しやすくなります。

コンフォートゾーンとは不安がなく居心地の良い状態を指し、ラーニングゾーンとは適切なストレスがかかる状態を指しますが、コンフォートゾーンから一歩踏み出さなければ成長するのは難しいため、現状維持バイアスを外してラーニングゾーンへと飛び込む必要があるのです。

適宜自分がコンフォートゾーンとラーニングゾーンのどちらにいるのかを意識することができるようになると、現状維持バイアスを外しやすくなるのではないでしょうか。

現状の介護サービスにおけるメリット・デメリットを見える化する

現状の介護サービスにおいて、現状維持をした場合のメリットとデメリットを見える化するのもおすすめです。

メリットやデメリットは頭の中で考えているだけでは客観視しにくいため、箇条書きなどで具体的に書き出してみると、自分でも予想していなかった思わぬ気づきが見出せる場合があります。

「べき思考」を取り払う

「べき思考」とは、「~するべきである」または「~するべきではない」という考えにとらわれてしまっている状態を指します。

「~するべきである」や「~するべきではない」といった考えは今までの経験の積み重ねから生まれる思考なので、「べき思考」の強い人ほど現状維持バイアスを外すのは難しいと言えるでしょう。

現状維持バイアスを外すため、べき思考を取り払う方法を3つご紹介します。

「べき」を疑う

介護の現場で「~するべきである」または「~するべきではない」という考えが浮かんだら、まずその考えを疑ってみましょう。

べき思考における根拠はおおむね常識や経験といったものですが、それは果たして今仕事をしている現場や時代に合った考えでしょうか。

自分の中で守り続けてきたことでも、周囲の環境に合っていないことであれば常識や経験をアップデートし、考え方を変えていく必要があるのです。

自分の中の「べき」を疑うことが、べき思考から解放される第一歩だと言えるでしょう。

自分と他人の考え方の違いを認める

自分と他人は考え方の異なる人間であり、それはよりよいケアを目指して一緒に働く仲間であっても変わりません。

そのような中で「~するべきである」や「~するべきではない」という思考を持って自分の考え方ばかりを押し付けていたのでは、チームの目指す望ましいケアへにはいずれ結び付かなくなってしまうでしょう。

最初はなかなか自分と他人の考え方の違いを認めるのは難しいですが、会話の中で相手との違いを認める訓練をすることが可能です。

介護の現場ではよく相槌で「そうなんですね」という言葉を使いますが、これを「(あなたは)そうなんですね」に変えてみましょう。

「あなたは」を口に出す必要はありませんが、心の中でこれを繰り返すことで自分と他人が自然に線引きされ、考え方が異なってもそのまま相手を素直に受け入れられるようになります。

「べき」を別の言葉に置き換えてみる

介護の現場でもし「~するべきである」や「~するべきではない」という考えが浮かんだとしたら、それを「~したい」や「~したくない」という言葉に置き換えてみましょう。

これらの言葉に置き換えることで物事を自分事としてとらえることができるようになるため、本当の自分の気持ちに気づきやすくなります。

そこで本当は「~したくないかもしれない」や「~したいかもしれない」と感じたら、べき思考の根拠となっている前提を見直す必要があるかもしれません。

現状を数値化し少しずつ変える

介護の現場における現状を見直す際、それをできるだけ数値化して考えてみるのも良い方法です。

数値で表現することにより明確な根拠ができるため、意思決定もしやすくなるでしょう。

ただし数値で現状を表現した際、1を100にするといった急激な変化を目標とすると、敷居が高すぎて結局現状維持バイアスから抜け出せないといったことになりかねません。

現状維持バイアスを外したいなら、少しずつ変化していくことを心がけましょう。

第三者の客観的な意見を聴く

介護の現場において現状維持バイアスを外すためには、関係者ではない第三者の客観的な意見に耳を傾けてみることも重要です。

自分では気づいていない現状維持バイアスを外すメリットやデメリットを知り、多様な視点からのアドバイスが受けられる可能性があるためです。

数値化した現状をなるべくたくさんの人に伝えることで思わぬ発想の転換ができるかもしれないため、積極的に行ってみましょう。

宅配クック123では「少しの変化」を大切にしています

宅配クック123では日々のサービス提供をルーティンの業務として行うのはもちろんですが、仕事をしていく中での「少しの変化」を大切にしています。

比較的新しい食形態で飲み込みやすいムースセット食を積極的に販売したり、農林水産省が推奨する新しい介護食品の基準であるスマイルケア食の指定を受けた「やわらか食」をお届けしたりしているのも、配食サービス業界においては、それほど大きな変化とは言えないかもしれません。

しかし、宅配クック123ではこのような小さなことの積み重ねこそが現状維持バイアスを外し、高齢者の方々へのよりよいサービスを追求することだと考えているのです。

高齢者の方々の家族にはなれなくともより信頼される「お隣さん」を目指し、今日も宅配クック123ではちょっとお節介な気持ちでお弁当をお届けしています。

宅配クック123資料請求ページ

まとめ

現状維持バイアスとは感情的な要因で認知や意志決定がゆがむ感情バイアスの1つで、変化することを不安に感じ現状維持を望む心理傾向を指しますが、介護の現場においては少しずつでも現状維持バイアスを外す努力を続けることが大切だとわかりました。

この記事も参考にしてぜひ現状維持バイアスについて理解を深め、新しいことを積極的に取り入れることのできる居心地の良い介護の現場を作ってみてください。